イベント・舞台挨拶

『バティモン5 望まれざる者』公開記念特別授業

© SRAB FILMS – LYLY FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023

 登壇者:ダースレイダー(パリ生まれの眼帯ラッパー)、東京都立西高等学校生徒約20名

 フランスが生んだ新進気鋭監督ラジ・リによる世界待望の最新作『バティモン5 望まれざる者』。5月24日(金)の全国公開を前に、都立西高校(東京都杉並区)にて、社会問題に切り込むラッパーとして活躍するダースレイダーを講師として招いての特別授業が開催! 未来を担う高校生たちと社会派ラッパーの異色のトークセッションが展開され、民主主義、国や街といった枠組み、法と秩序などについて語り合った。

 特別授業には生徒約20名と保護者数名が出席。ダースレイダーさんは最初に映画を観ての自身の感想として「どれが正解で、どこに落としどころを持ってくればいいのかが自分の中でも分からないので、都度都度、こういう事態になったら、話し合わなくてはいけないというところに辿り着きました」と語り、生徒たちにも感想を求める。

 最初に手を挙げた生徒は「正直、僕は『話し合うべき』というふうには思いません」と堂々と反対意見を口にする。そして「本当は『話し合う』ということが可能だったはずなのに、(行政も住民も)互いにその選択肢をとろうとしなかった」と語り、行政側と住民側の思想や価値観の乖離にその原因があると指摘。その上で、この乖離を埋めていく方法として、移民である住人たちがフランス側の文化や価値観を理解するための教育が重要だと訴える。また、移民が貧しさゆえに祖国を捨ててフランスへと渡るという状況に対し、そうした国々への経済支援を積極的に行なうことが必要だと主張する。

 これに対し、別の出席者(保護者)からは、統治側に合わせるのではなく「多文化共生を推し進め、寛容な社会を作っていく方向に進めていくほうが(問題が)収まるのでは? 互いを尊重しあうことで、対立を生まない社会になるのでは?」との意見が出る。
 また、別の生徒からは、行政側のトップである市長は、急逝した前任者の代役として市長になったものの、この団地の取り壊し政策に関しては「使命に燃えているわけでもなく、嫌々やっているように見えた」という感想も出た。

 ダースレイダーはこの感想にうなずきつつ、そんな消極的だった市長が、妻の車にイタズラ書きをされたことへの怒りから、報復的に住民の取り締まりを強化し「感情でやったそうした行動を『(取り締まったのは)彼らは法律を破っているからだ』と後付けで正統化しているように見える」と指摘。すると、ある生徒が「移民の側が先に法律を破って犯罪行為を行なっており、行政側は法を守っているだけでは?」との疑問を口にするなど、さまざまな視点や立場からの意見が飛び交う。

 ここでダースレイダーはさらに「法律や秩序とは何なのか? 誰にとってのものなのか? 民主主義の社会で法や秩序はどうやって決まるのか?」と生徒たちに問いかける。

 生徒たちからは、民主主義における物事の決定方法として「多数決」という声が上がるが、ダースレイダーは「民主主義では、100人の人がいたら、一人ひとりが同じ権利を持っている。多数決はあくまでも、便宜上のものに過ぎない」と、必ずしも多数決が絶対ではないと語り、さらに「そもそも、移民たちは(決定のプロセスに関わる)100の中に含まれていないという解釈もあると思います」と生徒たちに新たな視点を提示する。

 ここから、さらに議論は白熱! 生徒たちからは映画の中の住人たちの行動や、行政側の採った方法について「暴力で解決しようとしたり、自分たちのことばかり考えるのではなく、少数派やお互いのことをよく見て、妥協点や納得できるポイントを見つけられないのか?」「統治側と移民側でコミュニティの(習慣や文化の)違いが大きい。違う属性の人と接したり、優しさをもって(コミュニティの)壁を破っていくことが大事」「不満を伝える手段がないから暴力に訴えてしまう。暴力以外の(不満を伝える)方法が認められれば、(暴力沙汰は)起きないんじゃないか?」歩み寄りや解決に向けた方法を模索するさまざまな意見が飛び出す。

 また、ダースレイダーは、行政側の強硬な行動の根拠となっている、許可のない食堂の運営や定員オーバーの居住実態など、住民側の違法行為についても「法や秩序そのものを変えることはできないのか?」と新たな視点を投げかけ、「さまざまな意見や利害を調整するのが政治家の仕事であり、民主主義社会では、政治家もまた同じ権利を持つ人々から選ばれている。自分たちの暮らす社会をどう運営していくのか、自分たちで話し合って決めようということ」と語り、民主主義においては、法律の運用そのものを変えていくことも可能であり、法律や秩序は、人々が幸せに暮らしていくために存在するものであると説く。

 このほか、生徒や保護者からは「団地で暮らす人たちは『自分たちはフランス人』というアイデンティティを持っているけど、統治側は“移民”とひとくくりにしている。新たにやってきたシリア人の移民と、以前からいる(アフリカ系の)移民との間で、分断や軋轢が生まれて来ている」、「2世、3世はフランスで生まれて、フランス語を母語に育っているのに『国に帰れ』と言われるし、これまで相当なローンなども払っているはずなのに立ち退きを迫られる――暴力沙汰になる前の段階があったはずで、そう簡単に“排除”してはいけないし、法や秩序で簡単に片づけられない部分がある」など住民側に寄り添う意見も聞かれた。

 ダースレイダーは特別講義の最後に生徒たちに「あの集合住宅のひとたちは不幸だと思いますか?」と問いかける。映画では、住人のひとりが亡くなった際に、人々が協力して棺を外に運び、遺族を慰める姿が描かれる一方で、為政者たちが登場するシーンでは照明が暗くなっており、こうした対照的な描写を踏まえつつ、ダースレイダーは「人間が国や街という形で社会を形成し、一緒になって暮らすのはなぜか? 根本的には毎日、みんなが楽しく幸せに生きられるようにという理由だったはず。経済的には過酷なはずのバティモン5の人々はみんな生き生きしている――ここにもヒントはあるんじゃないかと思います」と語る。

 そして「皆さん、ぜひ今日の映画や今日の話をテーマにいろいろ話し合ってほしいです。民主社会がどう成り立っているかというと、何かを力で決めるのでもなく、王様が決めるのでもなく、話し合いが必要なんです。大変でもめんどくさくても、話し合っていくしかない――この映画を通じて、そこに辿り着ければと思います」と改めて話し合いの重要性を呼びかけた。

 『バティモン5 望まれざる者』は5月24日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。

公開表記

 配給:STAR CHANNEL MOVIES
 5/24(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開

(オフィシャル素材提供)

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