イベント・舞台挨拶

『湖の女たち』トークイベント【佳代編】

© 2024 映画「湖の女たち」製作委員会

 登壇者:松本まりか、大森立嗣監督

 琵琶湖にほど近い介護療養施設・もみじ園での老人の不審死事件を発端に、想像もつかない方向へと物語がうねり出していくヒューマン・ミステリー『湖の女たち』が絶賛公開中。

 6月5日(水)、映画『湖の女たち』のトークイベント【佳代編】を実施し、豊田佳代を務めた松本まりかとメガホンを取った大森立嗣監督が登壇。上映後のトークイベントにて松本は「佳代を通じて、人生ではじめて幸せだと思っている」「いろんなものが美しいと思えたり、愛とか幸せとかいうものに気づくこともなかった」と大森監督とのトークで佳代を通じて、改めて今思ったことをしみじみと語った。そして観客からのティーチインでは「まりかさんも高い壁にぶち当たると人間らしくなるんだなと思って、そこに美しさを感じていました。」「もうひと踏ん張りしないといけない時期だったので、力になりました」などの感想の声があがった。

 映画上映後、松本と大森監督が会場にあらわれると会場からは大きな拍手が。その様子に笑顔を見せた松本は、「本日はご覧いただきありがとうございます。今日は鑑賞後ということで、なんともいえない感覚に陥っていると思うんですけど、トークも一緒に楽しんでいただければ」と挨拶。続く大森監督も、大勢の観客で埋まっている会場内をしみじみと見渡しながら「今、日本で一番、お客さまが入っていることを喜んでいる映画監督だと思います」と冗談めかして会場を沸かせた。

 現在は連続ドラマ「ミス・ターゲット」撮影の真っ最中だという松本。「ドラマのカメラマンが映画の方で。撮休の時に映画を観に行ってくださったんですが、この映画のことを大絶賛してくださったんです。この方にそう思われたのなら間違いないというくらい信頼している方なので、分かる人には分かるんだなと思ってうれしかったですね」と切り出すと、賛否両論の意見が飛び交っている本作について「この作品が面白いとか、美しいとか、理解できるとか、そういう感覚を持てることがうれしいなと思ったんです。当然、この映画が分からない、と思う人もいるだろうし、そういう方の気持ちを否定するつもりはないのですが、わたしがこの人はすごいな、センスがいいな、と思う方からすばらしかったと言ってもらえると、自分がやってきたことが間違っていなかったなと思いますし、わたしとしてもほこらしい気持ちになります」としみじみ付け加えた。

 『湖の女たち』という作品を通じて松本は、佳代という難役に正面から向き合い、役柄をつかむために全身全霊で格闘し、苦悩する日々を送っていた。「監督が『湖の女たち』で言いたかったことのひとつに、“世界はうつくしい”ということがあると思いますが、生きることの本質などはここで理解できた。それはこの作品で佳代をやったからだと思う」と語る松本は、「佳代を通じて、人生ではじめて幸せだと思っているんです。あの時、監督が演出し続けていたことって、人の本質に訴えかけることだったなと。だから佳代という役を通過しなければ、わたしは今、こんなふうに生き生きとできてはいないですし、いろんなものが美しいと思えたり、愛とか幸せとかいうものに気づくこともなかった」と正直な思いを吐露。

 そして「佳代を演じてから1年半くらい経ちますけど、あの時ずっと監督から言われてきたことをずっとつかもうとしてきた。それが公開と同時に結実したということで、それはとてもすばらしい世界なんです。今は『ミス・ターゲット』というドラマで直球のエンタメをやっていて、もしかしたら全然違う演技に見えるかもしれないですけど、でも絶対にそこ(大森監督から言われた芯の部分)だけは死守して。絶対にこれからも大事にしていこうと思ってやっています」と力強く決意を語る。そんな松本に向かって大森監督も「俺は具体的に何をしてほしいとか言わないからね。言わないと自分で考えなくてはならない。それをずっとやっていただけなんですよね」と振り返った。

 福士蒼汰演じる圭介と、松本演じる佳代。支配する者、支配される者という危うい関係性をはらんだふたりの関係性はいったい何なのか。それをつかみかねていたという松本は、苦しい日々を過ごしていたという。「これが愛なのか、恋なのか。佳代が圭介をどう感じているのか、それが理解できなかった」と明かす松本に対して、大森監督も「男女の関係を恋愛でくくろうとすると、そうじゃないかも。混乱するかもねと言った気がします」と振り返った。

 さらに松本が「分からないものや、自分が今までに会ったことがないものって拒否反応を起こすと思うんです。おそらくこの映画を観て分からないという人はそういうことなんじゃないかなと。でもわたしはその本当の意味が分かりたかった。この映画では、世界は美しいといっているけど、その本当の意味を知りたかった」と語ると、大森監督も「まりかが最初に脚本なり原作なりを読んだ時から、分からないというところから、どうにか分かるところまで迫ろうとしていた。撮影中はその過程だったように思うんです。だって分からないから、そのまま突き放すんだ、というのは分断じゃないですか。自分と考え方が違うから拒絶するのか、話すことで少しでも理解しようとするのか。今は戦争もあるし、分からないもののほうが多いですけど、でも自分は映画をつくる上で、排除しないほうの人間になりたいなとずっと思っているんです」。

 佳代という役柄を少しでも理解したいが、それには苦しさも伴ったという。「本当に苦しいんですよ。佳代が分からなくて、本当に苦しみました。苦しくて、苦しくて、痛かった……でもわたしが分からないだけで、直感的にそこに真実があるような気がしたんです。だから分かりたかった。だからそれが分かった時の、この世界の開き方といったら! それは愛というか、とても優しくて、分断のない世界。こんなにも幸せな世界があったんだと思って。この映画ってそれを問われているような気がしたんです。拒絶するのはとても簡単なことですけど、それが分かった先に、本当に美しいものがあふれた世界があるような気がするんです」。

 そしてその言葉に深くうなずいた大森監督は、「俺たちがやらなきゃいけないのは、映画の中の世界をどうするか、ということ。お客さんの感じ方はいろいろあるだろうし、それはもちろん自由。ただその行間というか、説明されていない部分は、自分で感じないといけない。そうすると自分が観たものが鏡のように返ってくるんですよね。だから行間を埋めるのは大変なんですけど、でも自分が映画をつくる上で(必要以上の)説明は排除したい。1回目は良くても、2回目以降は飽きてしまうから。最初は何だこれはと思っていた映画でも、30代、40代、50代と年齢を重ねるとともに感想が変化していくということはあるんです。それは豊かな経験だと思うし、そういう映画が好きなんですよね」とコメント。松本も「監督はすごい映画をこの世に投じたということですね」と笑いながら付け加えた。

 そしてこの後は観客からの感想と質問を受け付けることに。映画を観た後に原作を手にしたという男性客は、原作とはまた違った、スクリーンの中での佳代を体現するためにどうやったのか、という質問も投げかけた。それには「もちろん原作もヒントにしましたけど、やはり佳代というのは、琵琶湖のそばの介護施設で誰かのお世話をしながら生きてきた人生で。都会に行くこともなく生きてきた女性を、都会に住み、芸能の世界にいるわたしがどうやってその人になれというのだろうかと。もちろん表面的に演じることはできるかもしれないですけど、大森さんの映画ではそれは許されない。都会の暮らしやいろんな物質に囲まれて生きているわたしが、まずは匂いからこの人物になりきることが必要不可欠だと思ったんです。だから彼女のことを頭で理解するのは難しかったけど、とにかく自分を隔離して、撮影中はなるべくおしゃべりをしないようにしたり、ホテルも隔離したところに泊まったり、分からないことはとことん分からないんだというふうに追い込んで。混沌というのをつくるようにしました。果たしてそれが正しかったのか分からないですが、それがその時にわたしができる唯一のすべだったと思います」と返答した。

 さらに本作の撮影時期に更新されたInstagramについて「この映画を撮影している頃に、それまでなかなか更新がなかったInstagramを、撮影日誌と称して毎日更新してくれて。ファンとしてはとてもうれしかったんですが、ただ内容は、佳代を演じるにあたり“できない”とか、“壁が高い”、“どうしたらいいんだ”、といった言葉がダイレクトな言葉で書き込んであって。まりかさんも高い壁にぶち当たると人間らしくなるんだなと思って、そこに美しさを感じていました。虚像の佳代を演じることと、現実でInstagramを書き込むことで、佳代を演じるうえでどんな影響があったのですか?」という質問も。それには「やはり自分が分からないものというのは最大におそろしいものですよね、それにぶち当たっている経験、そしてそこから何かをつかめるかもしれない、ということを記録として残したかったのかもしれません。分からないものがどんどん分かっていく過程。そういう人生の軌跡を残すのっていいなと。吐き出すことで、自分にとって何が分からないのかが分かるようになる」という思いがあったそうで、「それを自分の日記ではなく、皆さんに観ていただくということで言葉も整理されますし、どういう言葉をチョイスするのか、ということも大事だと思う。それはすごく病んでるね、と言われることもありますけど、全然病んでいるわけではなく。わたしとしては健全に生きていますし、人ってぶち当たるとそこまで行くよねと。それが成長していく過程だと思うし。だからわたしとしては『いいじゃん、なんでそんなこと言うの?』って思いますけど。でも私にとってはこの撮影期間にものすごく大事なことだと思ったから、感じたことを書きたかったんだと思います」と返答。

 その言葉に質問した方も「役に向かって頑張ろうとしているまりかさんの姿を見て勇気をもらっていました。わたし自身も、もうひと踏ん張りしないといけない時期だったので、力になりました。今日はお話を聞けて良かったです」という感謝のコメント。その言葉を聞いた松本も「届きました。良かった! わたしのほうこそありがとうございます」と笑顔を見せた。

公開表記

 共同配給:東京テアトル、ヨアケ
 絶賛公開中!

(オフィシャル素材提供)

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