登壇者:森山未來、藤 竜也、真木よう子、原日出子、近浦 啓監督
第71回サン・セバスチャン国際映画祭コンペティション部門で藤 竜也が日本人初となるシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)受賞した映画『大いなる不在』のプレミアム試写会が都内で行なわれ、主演の森山未來、共演の藤 竜也、真木よう子、原日出子、メガホンを取った近浦 啓監督が舞台挨拶に出席して作品について語った。
本作は、幼い頃に自分と母を捨てた父・陽二(藤)が警察に捕まったという知らせを受け、久しぶりに父との再会を果たした卓(森山)は、認知症で別人のように変わってしまった父に出会う。さらに、父の再婚相手である直美も行方不明になっていた。卓が妻(真木)と共にさまざまな手掛かりを基に、父の人生をたどっていくさまがミステリータッチで描かれる。
サン・セバスチャン国際映画祭での藤の最優秀俳優賞のほか、第67回サンフランシスコ国際映画祭では最高賞のグローバル・ビジョンアワードを受賞と海外で高く評価されている作品。
劇中ではメイン・キャストの4人が全員揃う場面がなく、お披露目の今日が、初のメイン・キャストが勢ぞろいとなった。近浦監督は「とても嬉しい」と笑顔を見せる。続けて作品について、近浦監督はコロナ禍で自身の父親が認知症になったことが本作制作のきっかけになったことを明かし、「社会が変容し、父親も大きく変わりました。社会と自分に共鳴するような作品を作りたいと思ったんです」と話す。
同作で親子を演じた藤と森山について、近浦監督は「森山未來という役者と藤 竜也という俳優を対峙させてみたかった」と2人への熱い思いを告白した。藤と近浦監督は3度目のコラボとなる。
主演の卓(たかし)役を演じた森山は「台本は魅力的ながらも、こんな奇妙なシチュエーションの中で、どう物語の中にいるべきなのか? とにかく映画と卓について知りたくて、近浦監督とたくさんお話をさせていただきました。近浦監督のお父さんの変容が物語に影響を及ぼしていることを知って、近浦監督を知ることから映画への旅が始まっていったんです」と振り返る。近浦監督とのディスカッションは6時間にも及んだという。
藤との共演について森山は「緊張感のある関係性でしたが、無理に意識することはなかった」と撮影を振り返る。そして、「いい意味で無駄のない緊張感で過ごさせてもらえました」と語った。
同作で第71回サン・セバスティアン国際映画祭の最優秀俳優賞であるシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞した藤は「もう既に9ヵ国でプレミア上映をやっています」と穏やかな笑顔を見せる。自身の役どころについて「私も毎日、自分の老いに対峙しておりますので、この役は非常に入りやすく、シンパシーを感じました。いつもなら、役のバックグラウンドはどうなっているのか?などと考えるのですが、スポッと捕まえられたので演じやすかったですね」と語る。さらに、「 陽二はどこに行っちゃうか分からない状態。それを見つめる森山さんの視線が好きでした。これはいけるんじゃないかという気がしました」と述懐した。
サン・セバスチャン国際映画祭ではスタンディング・オベーションの慣例がないにもかかわらず、上映後にスタンディング・オベーションが起きたという。藤は「お客様の笑顔が迫ってくるようでした。これは(他の映画祭とは)ちょっと違うなと思いました。送り出される時も皆さんが染みるような笑顔で送ってくださいました。この映画は国境や文化を超えたのかな思いました」と手ごたえを感慨深げに語った。
劇中で陽二の優しい妻・直美を演じた原について「映画祭で『今日は直美と一緒じゃないのかい?』と聞かれました。優しい直美が好かれていることを認識しました」とほっこりエピソードも笑顔で披露した。
そんな陽二が再婚した妻の直美役を演じた原は、夫役の藤について、最初の共演は『ションベン・ライダー』〈1983年 相米慎二監督〉だったことを明かし、「今回オファーが来た時、台本も読まずに『また藤さんと共演ができる』というだけでお受けしました」と声を弾ませる。『ションベン・ライダー』撮影時に23歳だったという原は、年上の藤に「藤さんって、おいくつなんですか?」と質問したことを明かすと、「君のボーイフレンドになれる歳だよ」と返されたという素敵なエピソードを披露して会場を沸かせた。
また、撮影場所が「監督のお父様が住んでいらしたお家で撮影させていただいたんです。すでに空気感が出来あがっていて、恵まれた現場でした」とコメントした。
卓の妻・夕希役を務めた真木は、台本を読んで「絶対に参加したい」と思ったという。「作品にスパイスを入れるような役柄で、このようなメンバーの中に参加できて嬉しいです」と話し、夫役の森山については「未來くんとのお芝居は居心地がよくて……。未來くんはダンスもやっているので、内側から出てくる色気が半端ない! どういうふうになったらこうなるんだろうって、目が離せなくなっちゃいました」と笑顔で印象を語った。
隣で聞いていた森山は「よう子ちゃんとは、『モテキ』(2011)以来かな? 陽二との関係によってできた卓のアイデンティティみたいなものが卓と夕希の関係性にもクセを生み出しています。居心地のいい関係でありながら、映画全体を通して、2人の関係性も少しずつ変容していく時間が過ごせました」と話した。
最後に、藤は「ミステリアスな映画。ミステリアスな心の揺さぶられかたをすると思います」と作品をピール。森山は「サスペンス・ヒューマン・ドラマですが、本当に人間の根源に訴えかけるような、慟哭や叫びのようなものになっています。日本だけでなく、ぜひ海外の友だちにも勧めてください」。
近浦監督は「全編35ミリフィルムで撮影された本作を、ぜひ大きなスクリーンで観てほしい。良質なエンタテインメントを撮りたいと思って作った作品です」と客席に向かってメッセージを送った。
(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:ギャガ
7/12(金)よりテアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
(オフィシャル素材提供)