インタビュー

『僕は妹に恋をする』安藤 尋監督 単独インタビュー

©2006「僕妹」フィルムパートナーズ

“終わり”というものを積極的に引き受けていける人間を描けるという思いがありました

 高校3年生の双子の兄妹、頼(より)と郁(いく)の、決して報われることのない禁じられた愛を描いたその衝撃的な内容が話題を呼んだ、青木琴美の大ヒット・コミックがついに映画化された。松本 潤初の単独主演作でもある『僕は妹に恋をする』で、兄妹の切ない純愛を情感豊かな映像で描ききった安藤 尋監督に話を聞いた。

安藤 尋監督

 1965年、東京都生まれ。大学在学中より映画の現場に参加。89年より、フリーの助監督として活動を始める。93年監督デビュー。2001年に撮影された『blue』(03)では、主演の市川実日子が第24回モスクワ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した。主な作品に『pierce ピアス LOVE&HATE』(96)、『dead BEAT』(99)、『ココロとカラダ』(04)、5本オムニバス作品『ZOO』の『ZOO』(05)などがある。

まず、今作の監督を受けられた経緯をお聞かせください。

 知り合いのプロデューサーから、「映画化したい原作があるので、読んでみて」とお話がありまして、読ませていただいたんですね。それで、「自分のやりたい方向で映画化できるのでしたら、ぜひやらせていただきたいです」と申し上げて、引き受けさせていただくことになりました。

原作マンガのどういった点に惹かれましたか?

 原作は結構生々しい部分もあるんですけど、ちょっとHなシーンなどもその絵柄から、ある種ファンタジックな世界にもっていけているので、そういった意味では“かわいらしいな”とも思えるマンガなんです。でも、同じことを実写で俳優さんたちがやっていったら、かなりエグい映画になっちゃって、逆に原作が持っている世界観を壊しかねないので、そうした生々しい部分さえクリアできれば、兄と妹の恋愛という設定ではあるんですけど、「どうしようもなく、好き」という二人の感情を純粋に描けると感じたんですね。ヘンな夾雑物は抜きにして、男の子と女の子が純粋にお互いを好きという部分をクローズアップさせるのであれば、ちょっとこれまでにない方向で撮れるのではないかと思いました。

単に「好きで好きでどうしようもない」ということでしたら、本来は兄妹である必要もないわけですよね? その兄妹であるという設定が、ラブ・ストーリーを描くにあたって、監督にとってはどういった点がプラスアルファになっていると思われますか?

 まず、好きになっていく過程を描く必要がないのはいいですね。兄妹であるが故に、二人には出会いもなければ別れもないわけです。ということは、彼ら自身が内面的に終わりを意識しなければいけません。自ら終わりを意識することによって、一つの恋愛をまた別の形に変容させていけるのではないかという意味でも、兄妹という設定は大きいと思ったんですね。これが他人同士でしたら、別れは単純に別れになってしまいますから。でも彼らにとっては、それはあり得ないことです。もちろん、距離的に離れることは可能でしょうが、好きだという思いは消えないでしょうし、兄妹という事実は終生変わらない。じゃあ、彼らにとって終わりは何かというと、自分たちの中で意識的に“終わり”というものを誕生させない限り、彼らは本当に終わることはできないわけです。それこそが、兄妹の恋愛という設定のプラスアルファ的な要素だと思いましたね。

確かに、二人はそうしないと人生において前に進めませんね。

 ええ。また逆に、兄妹であるということをクローズアップさせてしまうことも避けたかったんですね。親に見つかってしまっただとか、外圧があって別れるだとか、反対に余計に燃えてしまうだとか、そういう展開にもしたくありませんでした。

だから、そうした外部の干渉をあえて描かなかったんですね。

 そうなんです。それがあると、彼らのピュアな感情が、社会に左右されて濁ってしまうと思いました。誰かに言われたからとか抑圧されたからではなく、彼らが“終わりなんだな”ということを自然と自覚して、その終わりを自らつくっていくという形を描きたかったんです。その終わりとは、ある青春時代の終わりでもあるかもしれません。少なくとも彼らにとっては、幼少時代から続いてきたある時間の終わりではあるでしょうね。それを経ることで、これまでとは違った意味合いの“好き”に昇華させていけるんだと思います。これは、普通の恋愛ものではちょっと、できない形ですね。“終わり”というものを積極的に引き受けていける人間を描けるという思いがありました。

マンガの生々しいエロスの部分を省いた以外に、脚本にする上で苦心された点はありますか?

 二人が結ばれるということを、盛り上がりには持っていかないようにしようと思いました。というのは、彼らにとってセックスをするというのは、単なる自然の流れにおける行為の一つであって、目的でも何でもないですし、そういうことが彼らの恋愛には何らの解決にもならないわけで、僕としてはその後を描きたかったというのがありましたので、わざとそのシーンを早めに持ってきたんですね。
 あとは、学校を舞台に話を展開させるようにしました。
それと、先ほども言いましたように、外部の干渉から彼らが逃れたり、それを苦にしたりという状況をできるだけ無くすために、原作では両親が健在なんですが、なるべく親の目を少なくしたいなというのがあって、お母さんだけがいる設定にしたんですね。お母さんも、必要以上に彼らには干渉しないという方向でやらせていただきました。

確かに、お母さんと二人の関係はかなり微妙だと思いました。お母さんは何となく気づいているでしょうに、何も言いませんし。それと、家族三人が一緒に登場するのは食事のシーンだけですね。

 ですね! なんか、そうなっちゃいまして……(笑)。なんだろう……、自分自身のことを考えても、家族が集まるのって飯のときくらいしかなかったなという思いがありまして。兄妹の関係については、お母さんもちょっと意識するシーンはありますけど、やたら干渉してくるよりも、二人の日常の時間の中にふんわりと存在しているお母さんというイメージの方がいいかなとは思いました。食事のときには自然と顔を合わせなくてはいけないですけど、それ以上でも以下でもないという存在に留めておきたかったんです。お母さんもある部分では気づいているかもしれないですけど、口に出してしまった瞬間、それが事実だと分かるのは怖いという思いはあるでしょうね。とにかく、お母さんの介入は最小限に留めて、あくまで最後は二人に任せるということで描いていきましたので、結果的にお母さんの存在感は薄くなりましたね。

今回は、兄の頼を演じた松本 潤さん、妹の郁を演じた榮倉奈々さんにとって、かなりチャレンジングな役だったでしょうね。お二人とは、役柄について話をされたりしたのですか?

 役柄についてはあまり話さなかったですね。それは彼らが自然とつくってくれればいいと思いましたので。実際、二人が良かったのは、もちろん、兄と妹であるということはすごく意識しつつも、その二人が恋をするという部分においては、実にピュアな視点で受け止めながらやってくれたことです。好きだという感情を乗せていくシーンでは、余計なものをそぎ落として、兄妹ということは意識せず、単純に「好き」という感情に集中して演じてくれましたので助かりました。

長回しが多く、静謐な情景の中に熱い情感をにじませていくという描き方だったように見受けられました。松本さんもこれまでになく抑えた演技をされていたと思いますが、若い俳優さんたちは長回しに苦労されていませんでしたか?

 例えば、頼と郁が初めて結ばれるシーンなどは3日目に撮影したんですが、二人はこちらが期待していた以上にしっかりやってくれましたね。「自分の中に感情が生まれるまでは、せりふを言わなくていいよ」とは話していたんですが、そういう状況を楽しんでくれていたというか、気持ちを入れてやってくれまして、そういった意味では、長回しの多い僕の撮影スタイルにすっと入ってきてくれたと思います。

頼と郁の恋愛は、兄妹であるという状況はさておき、きわめてストレートな形だと思います。でも、矢野と友華という友達2人の感情表現はなかなか屈折していましたね。それが一層物語に深みを与えていたとも感じますが、監督にとってあの二人はどういう存在でしたか?

 彼らもやっぱり「好き」という思いを強烈に抱えているわけですが、ただ、その表現の仕方が全然違っていて、友華なんかはそれを意地悪な形でしか表現できない子なんですね。僕としては、友華の気持ちが一番分かったんですけど(笑)。矢野くんもまた、複雑な思いを隠していますし。とにかく、同じ「好き」でも表現の仕方はさまざまで、それぞれの形が見えてくればくるほど、頼と郁の恋愛の純粋性が浮かび上がってくるのではないかという思いはありましたね。

これまでご覧になった映画で、監督にとって理想的な愛の形を描いていた作品はありましたか?

 僕はトリュフォーが好きなんですよね。『恋のエチュード』や『緑色の部屋』が大好きなので、それらの作品がそうだと言えるかもしれません。

最後に、これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。

 『僕は妹に恋をする』の監督の安藤 尋です。この映画は、兄と妹の恋愛をピュアに描いた作品です。ぜひ、劇場でご覧になっていただけるとうれしいです。よろしくお願いいたします。

 双子の兄妹の恋愛をテーマにした本作。下手をしたら“近親相姦”という言葉でも表現できる際どい物語にもなり得るところを、感情を細やかに丹念に映し出す長回しと、微妙な光とフレーミングにこだわった映像で、移ろいゆく青春の一時を詩情豊かに切り取っている。そこにあるのは、まさしく“純愛”。また、お互いしか目に入っていない兄妹に恋する友人たちの思いも切なく痛々しく、胸に迫る。それぞれの恋愛の形をピュアに描いてみせた安藤監督、お話を伺って、監督ご自身もとってもピュアな方だなという印象だった。「トリュフォーが好き」だと言う方、私は無条件に信じます(笑)。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

『僕は妹に恋をする』作品紹介

 双子の兄妹、頼と郁。「郁は僕のお嫁さんだよ――」。幼い頃にシロツメクサの草原で交わした約束は、郁にとって大切な思い出になっている。だが最近の頼はそのことをすっかり忘れているかのように、郁に冷たい態度を見せる。しかしある夜、頼は郁に本当の思いを打ち明ける。「ずっと……好きだった」。
 2005年まで「少女コミック」に連載されていた、青木琴美の大ヒット・コミックを映画化! 松本 潤初の単独主演作。

(2006年、日本、上映時間:122分)

キャスト&スタッフ

監督:安藤 尋
出演:松本 潤、榮倉奈々、平岡祐太、小松彩夏、浅野ゆう子ほか

公開表記

配給:東芝エンタテインメント
2007年1月20日(土)より恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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