『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』など、数々の傑作を世に送り出し続けてきた名匠ヴィム・ヴェンダース。彼が長年リスペクトしてやまない役所広司を主演に迎え、東京・渋谷の公共トイレ清掃員の日々を描いた『PERFECT DAYS』は、TOHOシネマズ シャンテをメイン館として全国公開し、興行収入は13億円を突破し、世界での興行的にもヴェンダース映画最高の興行収入を記録している。
ヴィム・ヴェンダースが、日本の公共トイレのなかに small sanctuaries of peace and dignity(平穏と高貴さをあわせもった、ささやかで神聖な場所)を見出し、清掃員の平山という男の日々の小さな揺らぎを丁寧に追いながら紡いた本作は、第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したことを皮切りに、第50回テルライド映画祭、第48回トロント国際映画祭、第71回サンセバスチャン映画祭、第60回台北金馬映画祭と名だたる映画祭に招待された。日本国内では36回東京国際映画祭オープニング作品として大きな話題になり、日本アカデミー賞(優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞)、キネマ旬報ベスト・テン(日本映画監督賞、主演男優賞)を受賞。米国アカデミー賞®では国際長編映画賞・日本代表としてノミネートされ世界中の注目を集めた!
7月26日(金)にはUHD/Blu-ray/DVDが発売開始となり、8月9日(金)には本作の共同脚本・プロデュースである高崎卓馬氏とヴィム・ヴェンダースとの2年を記録した書籍が発売となる。
この度、韓国・ソウルにて行われた『PERFECT DAYS』特別上映後トークイベントに役所広司、ソン・ガンホが登壇!
第75、76回のカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞した、アジアを代表する名俳優の対談を一目見ようと会場は超満員! ソン・ガンホが語る『PERFECTDAYS』の魅力とは? お互いについてのトークなど、今まで語られたことのない内容が満載の貴重なイベントとなった。
超満員の観客から拍手で迎えられ役所とソン・ガンホが登壇。今回、15年ぶりの来韓となった役所は「ソンさんとカンヌ映画祭以来に再会できて幸せです。よろしくお願いいたします」と笑顔で挨拶。ソン・ガンホは「尊敬する役所さんとトークすることができてこのうえなく光栄です」と互いに挨拶し、イベントが始まった。
<役所:「もし、『PERFECT DAYS』の監督がポン・ジュノ監督だったら……>
ソン・ガンホが本作の感想を求められると、「無音の木々の間にさす一筋の光。日本の役所広司という偉大な俳優の微笑。役所さんの俳優としての演技の深み、そして作品が描く、人生の深みというものが計り知れないものだと思いました」と熱を込めて語り、役所は「カムサハムニダ」と深く礼をした。
ヴィム・ヴェンダース監督の作品に出演したことについて役所は「(出演を決めたのは)まだ監督にオファーしているタイミングでしたが、すぐにOKが出て、しかも監督のリクエストで長編映画にしたいということで、この映画の旅に出ることになりました。最終的に韓国でソン・ガンホさんと一緒にこの映画を紹介できるとは夢にも思っていませんでした。もしヴィム・ヴェンダース監督ではなくて、ポン・ジュノ監督が撮っていたら、平山はソン・ガンホさんが演じていたのでは……と思いますが、早い者勝ちだったので、幸運でした」と話すと、会場は笑いに包まれた。
そして実際にソン・ガンホは、プライベートで東京を訪問した際に“木漏れ日”を体感し、平山の気持ちを味わったそう。
「天候に恵まれたので、小さな公園を散歩しました。映画と一緒でベンチもあって、皆さんがすごくのどかな雰囲気でお弁当を食べていました。ちょうど空を見上げると、木々の葉っぱの間に日差しが差していて、しばらく私が平山になったつもりになりました」と、東京での思い出を語った。
『PERFECT DAYS』で印象に残っているシーンについては、「どのシーンも美しくて、本当に名場面ですけど、印象的だったのが平山の妹が、姪のニコを迎えに来るシーンです。平山の生い立ちが“多分裕福だったんだろうな”とか、“何不自由ない生活をしたんだろうな”というふうに察しました。平山の後ろ姿を見て、少しでも後悔の念を感じているのか、どういった価値観で家族と別れたのかな、などと思いながら。こういうシーンでも平山はすごく控えめな感情で、また暗い中で撮ったシーンなので、すごく印象に残っています。私はそのシーンがこの『PERFECT DAYS』という作品のアイデンティティーを読み取れるシーンなんじゃないかなと思いました」と答えた。
<ソン・ガンホ「役所さんだけに裏でお話しします」ポン・ジュノ監督に言われた言葉とは……?>
最小限の台詞で、俳優の表情や身体の動きが物語をつくる本作へ、俳優としての質問はあるかと問われるとソン・ガンホは「名場面はたくさんありますが、ラスト・シーンは外せないと思います。長回しで、平山の顔の寄りで撮っていますが、どういうことを考えながら演じたのか、監督がどういうディレクションをしたのか?ということです。『殺人の追憶』(2003)でラストシーンを撮る前に、ポン・ジュノ監督が数十人のスタッフの前で聞こえる声で指示するのではなく、僕に耳打ちをしたことがあったので、そういうことがあったのか気になりました」というと、役所は「俳優人生のなかで、あれほど自分の顔がスクリーンに大写しになったのは初めてで、目線をそらすこともできず、カメラを見つめなければいけないというのが少し照れ臭かったですね。ト書きには“バックミラーに平山の目に涙が見える、でも悲しそうではない。これから自分が選んだ仕事に向かう”というような詩的な文章が書かれていました。撮影の前に監督に“涙を見せたほうがいいのですよね?”と聞いたら、”泣かなくてもいい。でも泣いたほうがいいかな”と言われて、”じゃ、頑張ります”と言って、やりました。本編と同じようにFeeling Goodを流しながらの撮影だったので、歌っているニーナ・シモンの魂が影響していると思いました」と撮影時を振り返った。
ちなみに『殺人の追憶』でのポン・ジュノ監督からの指示についてソン・ガンホは「もっと歳月を経てからでないと言えないです。役所さんにだけ、裏でお話しします」と二人の秘密に。
<他国の監督と自国で映画作りをするということ>
役所は『PERFECT DAYS』でヴィム・ヴェンダース監督と、ソン・ガンホは『ベイビー・ブローカー』(2022)で是枝裕和監督と、他国の監督と自国で映画作りをした経歴を持つ。それぞれにどういった刺激的影響を与えたのか問われると、役所は「ヴィム・ヴェンダース監督を尊敬している俳優とスタッフが集まって、毎日映画の作り方を学んでいるような、ヴィム・ヴェンダース教室のような撮影でした。監督はいつも笑顔でユーモアがあって、映画作りってこんなに楽しいものなんだぞということを教わったような気がします。ドイツ人である有名な監督が日本での物語をこれだけ違和感なく作品にできたというのは、やはり監督が日本という国を好きで、そして日本人というものを好きでいてくれたことが一番大きいと思います」と振り返った。
対してソン・ガンホは「『ベイビー・ブローカー』で是枝監督との撮影を終えた後、マネージャーに韓国の監督のシナリオをこれからは断って、海外の監督の作品を優先的にやっていこうと伝えました」と言ったが、この冗談に笑いが起こらなかったため続けて「ここ笑うところですよ」と付け加えたところで、会場が大きな笑いに包まれた。さらに「役所さんと全く同じ想いです」と先ほどの役所の話に深く賛同。
<役所広司×ソン・ガンホ、お互いの出演作で好きなのは……?>
役所は悩みながら、「初めてソン・ガンホという俳優を見たのが『シュリ』(1999)で、そのあとが『JSA』(2000)で最近の作品も観てますけど、やっぱり『殺人の追憶』(2003)ですね。作品も素晴らしかったし、あの田舎者の捜査員がとても一緒には付き合えないような刑事でしたね(笑)。作品自体がユーモアもあって緊迫感もあって、少年に両足で飛び蹴りした時には大笑いしました。ソン・ガンホさんはやっぱり実在感があるというか、リアリティがあるというか。ユーモアと、シリアスな部分のギャップの大きさが観客としてはとても魅力的なんです。すごい俳優さんがいるんだなと思っていました」。
それに対し、ソン・ガンホは「もったいないお言葉です」と謙遜しつつ、「『PERFECT DAYS』という作品は、本当に役所広司という大俳優の演技の集大成なんじゃないかなと思いました。言葉を発してなくても、映画の深みというんですか、そしてその人物が抱えている苦しみも表現していて、これを役所さんでなかったら、こんな作品は生まれなかったんだろうと思います。僕が一番初めに観たのは『Shall we ダンス?』(1996)、そして『CURE』(1997)、『すばらしき世界』(2021)も……。実は、私の今日の衣装は『孤狼の血』(2018)をイメージしてきました」とフォーマルで少し柄の入ったシャツの衣装を『孤狼の血』の役所演じた警察官の大上を真似てきたと明かすと、役所も会場からも大きな笑いが。
続けて「ポン・ジュノ監督と話していたのが、『うなぎ』(1997)で交番に行って自首をするシーンの演技。主人公の苦しみ、または哀れみ、その深さを演じられる俳優というのは、世界に役所さんしかいないんじゃないかなと」と、親交のあるポン・ジュノ監督とも役所の話をしていることを明かした。
<芝居というのは完璧なもの、目に見えないものに向かって絶えず走っていく仕事>
本作にちなんで、「平山のように、自分でちょっとした満足感、幸福感を得るためにどういった取り組みをしているのか」という質問に対し、役所は「自分がイメージした通り、なかなか自分の体も芝居も上手くいかず、落ち込みもしますけれども、撮影が終わった時に、“今回はダメだけど、次にやるとひょっとしたらうまくいくかもしれない”というのを繰り返し、繰り返して40数年やってこれているような気がします」と答えた。
一方、ソン・ガンホは「我々の人生というのは完璧というものはないんですよね。そして、本当に完璧な演技というのも存在しないのだと思います。我々の人生と同じく、俳優としての芝居というのも、完璧なもの、目に見えないものに向かって絶えず走っていく仕事なのではないかなと思います」と語った。
<日本と韓国でいい交流ができたら……>
最後に、ソン・ガンホが「今の時代の映画は、物語の展開が速く、刺激的じゃないと注目を集められない時代です。そんな時代に、我々にあるべき姿は何か、まず大切な価値は何か、それを立ち止まって考えさせられるという意味で『PERFECT DAYS』は本当に大切な作品だと思います。また、人生というのは完成がないんだという真理を語ってくださったような気がして、本日この場は本当に素敵な時間でした。改めて役所広司さんという俳優さんの偉大さを感じました」というと、隣同士で座る二人が頭を横に近づけてお辞儀。
続けて役所は「以前ポン・ジュノ監督が、役所広司をキャスティングするならどんなキャラクターにするかを質問されて “年老いた、ダメな漫画のアシスタントで、しょっちゅういじめられている役”とおっしゃっていたそうです。それが実現したら、恐らく漫画家の先生役はソン・ガンホさんで、両足で飛び蹴りされている僕の姿が頭に浮かびました。こうして、ソン・ガンホさんと知り合うことができて、何かもっと映画で日本と韓国がいい交流ができたらいいなと心から思いました。ありがとうございました」と言うと、本日一番の笑いとあたたかな拍手に包まれ、大盛り上がりのイベントが幕を閉じた。
公開表記
配給:ビターズ・エンド
ロングラン上映中!
(オフィシャル素材提供)