「一生の出会いを」アニメーションを通じ平和文化への願い
米国アカデミー賞®公認、“世界4大映画祭”の後を継ぐ2年に1度のアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」が2024年8月14日(水)~18日(日)の5日間、広島県広島市にて開催中。
HASは、世界4大アニメーション映画祭のひとつとして知られた広島国際アニメーションフェスティバルが2020年に終了したのち、2022年より新たな装いで生まれ変わった2年に1度のアニメーション映画祭。アニメーション映画祭としては日本唯一の米国アカデミー賞®公認となる。HASでは、ユニークなアニメーション作家たちが集い、作品を披露しあうという映画祭のコアを現代的にアップデートし、長編、テレビ、ウェブ・メディアなど短編にかぎらずアニメーションの可能性と未来をパーソナルかつユニークに掘り起こすクリエイターたちを、古今東西・商業非商業の枠を超えて紹介していく。
8月14日(水)、オープニング作品として、大ヒット作「オオカミの家」のデュオ・レオン&コシーニャの新作『ハイパーボリア人』上映が行われ、ホアキン・コシーニャが登壇するなど華々しいスタートを切った。また、この日開会式も行われた。
オープニング上映『ハイパーボリア人』
登壇者:ホアキン・コシーニャ監督、山村浩二アーティスティックディレクター
クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ監督の新作長編『ハイパーボリア人(原題:The Hyperboreans)』の日本プレミアがひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)のオープニングを飾った。昨年、日本公開されるやいなや、ミニシアター系ながら口コミを中心に話題を呼び、満席続出のヒットを記録した長編アニメーション『オオカミの家(原題:The Wolf House)』を手がけたデュオの新作というだけあって、多くの観客が集まった。上映前には、映画祭のアーティスティックディレクターを務める山村浩二氏が登壇し、「『ハイパーボリア人』は、ミゲル・セラーノというチリの実在の作家が物語の鍵を握っています。彼は、チリの外交官であり、カール・グスタフ・ユングやヘルマン・ヘッセとも交流があった博識な人物でしたが、ヒトラーの信奉者という側面も有していました」と本作の背景を紹介。
上映後には、HASの審査員として来日中のコシーニャ監督が登壇。山村氏を聞き手に本作について語った。
山村氏から「本作のアイデアはどこから?」と問われたコシーニャ監督は、「セラーノは、チリの文学界ではよく知られた存在で、極右なのに外交官だったという事実は問題であると捉えられています。とはいえ、こうした人物が実在した事実は奇妙なもので、チリの歴史と向き合うためには、それに匹敵する奇妙さを持ち込まなくてはならなかったんです」と答えた。
続いてプロジェクトがどのように進んでいったのか尋ねられたコシーニャ監督は、「私たちは最初の長編アニメーションを制作した経験が大変すぎたので、次は実写に挑戦しようと考えました。ですが、一度書き上げた脚本に満足がいかず、全て破棄し、2ヵ月で書き直して撮影に臨んだのが本作です」と説明。「この作品はナチスについて描いているが、何かを決断することや、ものを作ることにまつわる困難を扱っています」と述べ、「最初から女優1人と作ることを決めていたので、俳優と監督の関係についても学びながら作りました。その経験も反映されています」と付け加えた。
また「本作の一部は展覧会の一環として撮影され、撮影の様子自体がパフォーマンス・アートとして展開されました」と独特な制作工程も紹介。主演のアントニア・ギーセン起用の背景を問われると、コロナ禍にオンライン演劇を共作した経験が決め手になったと語り、「そのオンライン演技は、本人(ギーセン)の映像にウィルスが侵入してきて変化が生じるという内容でした。それが面白かったので、本作でもその構造を取り入れました」と明かした。周到さと即興性のバランスを問われると、「本作に登場する人形の多くはワークショップの参加者が制作したものです。簡単な仕組みだけ作って、そこに参加してくれた人とコラボしながら、即興的に試行錯誤しながら作っていくやり方を導入しています」と答えた。本作に影響を与えた作品を尋ねられると、「新しい技術や方法が生まれてきた瞬間は、方法論が確立していないので、全員が実験をしないといけません。そうしたメディアやテクノロジーの創成期を牽引したアーティストや作品に影響を受けています」と明かした。
最後に、今回は来日が叶わなかったもう1人の監督、レオン監督からの「広島の皆さん、こんにちは。何年か前に日本に行ったことがあって、本当に大好きなので、今回は行けず残念です。映画を楽しんでください」という音声メッセージが流れた。コシーニャ監督はHASの審査員も務める。『ハイパーボリア人』は来年日本公開予定だ。
開会式
挨拶:土居伸彰プロデューサー、宮崎しずか共同プロデューサー、山村浩二アーティスティックディレクター
14日夕方から行われた開会式では、まず映画祭のプロデューサーである土居伸彰氏が挨拶を行った。前回の2022年はコロナ禍とあって、海外からの来場が著しく制限され、また国内でも感染拡大が広がりコミュニケーションが難しい時期だった。「映画祭には、映画を観ること、交流することの2つの要素があると思うんですけれども、今回は人が集まる場所としてのひろしまアニメーションシーズンを初めて開催できるとも言える。今回はそれを記念して、映画祭に併設する形でネットワーキング型のアカデミープログラム【HAM】を新設いたしました」と紹介した。
朝は朝食を食べながら、昼はレクチャーやシンポジウム、上映、夕方からはコンペを見たりパーティーで交流を深めるといった映画祭ならではの交流を目的としているプログラムだ。土居氏は「皆様にとって一生の出会いがこの場で起こることを願っております」と語った。
また、HASは地元広島の学校や企業関係者とも密な連携をとっている。宮﨑しずか共同プロデューサーから広島にアーティストを招聘し、住まいながら作品制作に携わる「アーティスト・イン・レジデンス H-AIR」の説明が行われたほか、比治山大学の学生を中心としたボランティア・スタッフの支え、世界的に著名な熊野筆の作品への提供など地元企業への感謝が述べられた。
土居氏は「冷戦期に誕生したアニメーション映画祭という文化は、“アニメーション制作者である”、その一点において共通する人たちが、国境や政治的な思惑を超えて交流してきた歴史を持つ場所。混迷を極める2024年ですが、アニメーション映画祭の誕生の原点にある通り、これからの5日間私たちの目の前にあるのはアニメーションとコミュニケーションの2つだけ。そんな環境で生まれる個人間の交流こそ、平和文化を作っていくもののはず。どうか映画祭を楽しんでください」と挨拶した。
山村浩二アーティスティックディレクターが上映プログラムについて説明。コンペは短編・環太平洋アジアユース・日本依頼作品・長編の4つ。短編はさらに【社会への眼差し】【寓話の現在】【虚構世界】【光の詩】というカテゴリーに分けられる。今回のコンペには97の国と地域から2634作品の応募があった。
その傾向について山村氏は「AIを使った作品がこの2年で急増しました。そして過去の世界大戦を振り返ったり、戦争をテーマにしたもの、もしくは難民や移民問題を扱ったものが大変目立ちました」と語った。グランプリ作品は、アメリカアカデミー賞のエントリー資格が与えられる。
「19世紀末、映画が発明されて以来、イメージはどんどん増殖して洪水のよう。今やスマホや近年のAIの発展でますます加速している。その中でアニメーションというのは、人の手による創造性が高く意識される映像で、これからますます重要性が増してくる。これから5日間、アニメーションの歴史と最先端が折り重なった多様なプログラムをお楽しみください」と力強く開会を宣言した。
【ひろしまアニメーションシーズン2024】開催概要
■開催日程:2024年8月14日(水)~8月18日(日)
■会場:JMSアステールプラザ
■主催:ひろしま国際平和文化祭実行委員会、公益財団法人広島市文化財団、中国新聞社
■協賛:三井不動産リアルティ中国
■助成:公益財団法人JKA
■メイン企画:コンペティション(短編・長編・環太平洋アジアユース・日本依頼作品)
特集上映、シンポジウム、トーク、ワークショップなど
ひろしまアニメーションアカデミー&ミーティング(HAM)
■映画祭プロデューサー:土居伸彰(ニューディアー代表)
■共同プロデューサー:宮﨑しずか(アニメーション作家/比治山大学短期大学部准教授)
■アーティスティック・ディレクター:山村浩二(アニメーション作家/東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻教授)
■第2回ひろしま国際平和文化祭: https://hiroshimafest.org(外部サイト)
■ひろしまアニメーションシーズン2024: https://animation.hiroshimafest.org(外部サイト)
(オフィシャル素材提供)