イベント・舞台挨拶

『二つの季節しかない村』公開記念!トークイベント

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 登壇者:荻野洋一(映画評論家)

 カンヌ国際映画祭に作品を出品するごとに、常に高評価を得続けているトルコの名匠、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督最新作で、第76回カンヌ国際映画祭最優秀女優賞を受賞した『二つの季節しかない村』が、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか絶賛上映中。

 カンヌ国際映画祭に愛され、これまでにパルムドール大賞、二度のグランプリなど、出品ごとに受賞を重ねてきたヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督最新作。本作『二つの季節しかない村』ではメルヴェ・ディズダルにトルコ初の最優秀女優賞をもたらした。
 この度、公開を記念して、映画評論家の荻野洋一が登壇した上映後トークイベントが新宿武蔵野館にて行われた。3時間18分にも及ぶ『二つの季節しかない村』を鑑賞いただいた後に、さらにトークで計約3時間40分のイベントは本作を深堀した貴重なトークとなった。

『二つの季節しかない村』を料理で例えるならば“本格的なコース料理”

 まず、本作を観た率直な感想として荻野は「とにかく非常にずっしりとコクのある、料理で例えるならば“本格的なコース料理”を食べたようでした」との一言。「とにかく登場人物に対する造形の堀の深さ、コクのある人物造形に引き込まれたのが、初見での印象でした」と本作を絶賛。特に主人公に対する容赦の無さが印象的だったと言う。「SNS上では『主人公がイヤだ』という感想を多く見受けますが、それは裏を返せば、監督のヌリ・ビルゲ・ジェイランが主人公に自らを仮託して、非常に手厳しく、自己批判といえるような形で人物造形をしたと言えるのでは」と考察。
 カンヌで最優秀女優賞を獲得したメルヴェ・ディズダル演じる英語教師のヌライを「本作で一番信頼に値する人物」と評し、「ヌライの自宅で主人公サメットとのお互いの生き方を巡ってのディベート・シーンで、丁丁発止の言葉の強さに感動しました」と12分を超える本作隋一の見どころに触れ、「非常に正統的なカットバックを丁寧に重ねている。大人の生き方の言語をぶつけ合っていくカットバック自体の力強さを感じた」そうで、「優れたディベートなので、自分のiPhoneに全部記録して、ディベートの練習台にしたいぐらいの充実感がありました(笑)」と笑いも誘う。

“共感や寄り添いを求めがち”な現代の映画観客の嗜好に ヌリ・ビルゲ・ジェイランは抵抗を試みているのでは

 パルムドール受賞作『雪の轍』(14)公開時にアテネフランセ文化センターで行われたジェイラン監督特集の際にもトークに立った荻野。ジェイラン監督作品の特徴について「とにかくヒーローが出てこない」と分析する。「私たちと似たような、欠点が多く、何か欠けているような登場人物たちの集まりで、ある種言ってしまえば烏合の衆」と語る。「特に現代の映画観客の嗜好は、どうしても“共感”とか“寄り添い”に主人公像を求めがち。『共感できたから良い映画』『主人公がイヤなヤツだから悪い映画』と、観客の嗜好が傾斜しつつある中で、ジェイラン監督はその傾向に対して、抵抗を試みてるのだと思います」と、ジェイラン監督作品の特徴を考察する。「主人公の嫌な部分や欠けている部分を、きっちりとレンズで観ている」からそういった主人公が生まれるとのこと。その他の特徴として“閉塞感”を挙げた荻野。本作は東アナトリアの寒村で主人公たちが、雪深さのためにある種監禁されている状況の中で互いの人間性をぶつけ合っている。『昔々、アナトリアで』(11)は例外的に見えるが「事件を追う警察車両が行ったり来たりするロードムービーかと思いきや、実は彼らは堂々巡りしかしていない。そういう『閉塞感に囚われているのが人間の社会』という認識のもとで、あえてそういうシチュエーションを形づくっている」と、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品を分析した。

手厳しさはイングマール・ベルイマン、 パノラミックさはジャ・ジャンクー映画にも近い

 主人公のキャラクターのためか、長さのためか、SNSで感想が表出しづらい本作。「ああ言えばこう言う」いわば「サメット構文」を駆使する主人公に対する印象で終始しがちだが、こういった映画を観た時にどのような言葉で表現できるかを尋ねてみると「その嫌な主人公を、どのように受け止めて、味わって、是枝裕和監督がコメントで言っていたように(註)“面白い”というところまで持っていけるか。そのハードルを越えられたら、本作のような手厳しい作品も楽しむことができるはず」と貴重なアドバイスが。「ロシア文学を味わい慣れている読者にとっては大好物のはず。本作にも人間の“罪と罰”が描かれている」と荻野。
 また、ジェイラン監督の撮影方法について、「パノラミックな自然が入ることによって、一旦、加熱した人間関係を冷却する効果があって、どこか地球サイズなところに視点を持っていく効果がある」と解説する。人間描写の手厳しさがある作風でいうと、「イングマール・ベルイマン監督のようにレンズで覗き込むような手厳しさがあるけど、“地球の中に生きる私たち”を映すような引いたカメラにおいては、人間の蠢きを描きながらも、素晴らしいパノラミックが映るジャ・ジャンクー監督の映画にも近いんじゃないかなと思います」と、他監督の作品に特徴をなぞらえて分かりやすく解説した。

註)是枝裕和監督 コメント
 観る前に予想していた「重厚な」物語とは違う、この上なく「面白い」映画だった。
 2、3人の人物が、外を雪に覆われた室内で、延々と話すシーンが繰り返されるにもかかわらず、ラスト・シーンまで一瞬も飽きることが無い。
 素晴らしい台詞。素晴らしい演出。

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか絶賛上映中!

(オフィシャル素材提供)

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