登壇者:バルタザール・コルマウクル
多くの受賞歴を持つアイスランドの映画監督バルタザール・コルマウクル(『ザ・ディープ』[2012]、『エベレスト』[2015]、『ビースト』[2022])の最新作『TOUCH/タッチ』。2024年5月にアイスランド、7月に北米などで公開され、世界中で高い評価を得ている本作が、物語の舞台の一つである日本でも満を持して、2025年1月24日(金)に公開する。
『TOUCH/タッチ』は、初期の認知症であることが判明した主人公のクリストファーが、人生でやり残したこと……50年前に愛した大切な人が突然姿を消してしまった謎を解き明かすことを決意。2020年コロナの世界的流行で国境が封鎖され始める中、アイスランドを出発し、ロンドン・日本を旅しながら彼女を探す、時と海を越えた壮大なラブ・ストーリー。原作は2020年にアイスランドで発表されベストセラーになったオラフ・オラフソン著の『Snerting(※原題)』。この物語を手にしたコルマウクル監督は、「世界の国々と異なる人種、2つの時間軸と歴史的な出来事をパンデミックの世界に見事に織り込ませている」と、映画化を熱望。撮影は2022年の終わりにアイスランド・レイキャビクで始まり、ロンドンでの撮影を経て、2023年に東京や広島での日本ロケを敢行された。
2020年のクリストファーを演じたのはアイスランドの俳優でシンガーであるエギル・オラフソン、対して若き日のクリストファーはオーディションを経てコルマウクル監督の息子であるパルミ・コルマウクルが演じた。そして、クリストファーが学生時代を過ごす1969年のロンドンで出会う最愛の人・ミコ役にKōki,、ミコの父でありクリストファーが働く日本料理店を営む高橋には本木雅弘。さらに、2020年の日本でクリストファーが出会い酒を酌み交わすクタラギ役を中村雅俊、ミコを探す中でクリストファーが出会うハシモト役を柴田理恵が演じ、中村は劇中で歌も披露している。
2020年と1957年の二つの時代にまたがる恋を描いた本作。作品の中では重要な側面として、原爆が及ぼす影響や被爆者についての描写が含まれており、日本公開の検討中から、制作・配給サイドとして、大切な舞台の一つとなる広島で全国公開に先駆け上映したいと希望していた。この度、11月23日(土)に広島国際映画祭2024の「ヒロシマEYE」の作品の1つとしてジャパンプレミアとして上映され、来日したコルマウクル監督が上映後のトークイベントに登壇。本作へ込められた想い、Kōki,・本木雅弘などの日本人キャストとの思い出、そして撮影地でもある広島で上映を迎えた今の想いを語った。
広島国際映画祭は「ポジティブな力を持つ作品を世界中から集めた映画祭」をテーマに企画し、3日間で10ヵ国・地域の25作品を上映。プログラムは主に5種類に分類され、最前線で活躍する国内外の映画監督を招聘する「特別上映作品」、ポジティブな力を持つ作品を世界中から集めて審査する「国際短編映画コンペティション」、広島にゆかりのある映画人や広島で撮影された映像作品を上映する「ヒロシマEYE」、監督や映画関係者によるトークイベント「ティーチイン」、映画監督が講師を務める「ワークショップ」で構成されている映画祭である。
日本では初のお披露目となる上映を終えたばかりの会場に登壇したコルマウクル監督は、「皆様に観ていただけて本当にうれしいです。今日はありがとうございます」と挨拶。ご覧いただいたお客様を前に「映画の大切な舞台となる広島で今映画を観ていただいている。現実なのかと思ってしまうような心境です」と語った。本作を映画化したいと思った理由について聞かれると「アイスランドではクリスマスに本をプレゼントすることがあるのだが、娘からクリスマス・プレゼントされた本。すぐに引き込まれた。世界が今同じ過ちを繰り返すのではないかという中、生まれていない子どもですら被害者になるこの悲劇を世界に伝えたいと思った」と映画化を決意した思いを明かした。
本作でミコを演じているKōki,とミコの父を演じる本木雅弘との撮影について振り返り、「高橋の役は“父としての強いイメージ、昔ながらの父親像で短気ですぐ怒るけど、優しい人”というイメージで探していて、本木さんは理想通りに演じてくれた。(若い頃のクリストファーを演じた)パルミをオフもオンも包み込むような優しさと温かさをもって接してくれて、作品内での店主と弟子という関係性が素晴らしい形で描けている。劇中で高橋がクリストファーを一人前と認めて仕事を渡す時の手紙を本木さんが60種類ぐらい書いてくれて、驚くほどの細やかさで撮影に参加してくれた」と感謝を語っている。続けて、「Kōki,さんは撮影中はとても控えめで礼儀正しく、なによりも自分を信頼してくれた。例えば花を育てるときに肥料や環境は整えられるけど、きれいな花を咲かすことは花にしかできない。でも、彼女は成し遂げてくれた。パルミとKōki,も撮影中にまるで兄と妹のような信頼関係を築き、撮影の雰囲気も素晴らしいものにしてくれた」と撮影中の雰囲気が映画にも表れていたと明かしている。
アイスランド・イギリス・日本(東京・広島)と海をまたいで行われた撮影については大変だったと語る。2023年に広島市・竹原市・呉市で行われた撮影について「フィルムコミッションの皆様の協力が素晴らしかった。センシティブな側面がある映画にも関わらず、皆さんがとても優しく、なによりも広島の方のパワーが素晴らしいと感じていた。撮影でお借りした民泊のオーナーの方が被爆二世の方で、自分の家族に起きたこと、その後の影響など細かく教えてくださり、写真など個人的な持ち物も撮影に使わせてくれた」と語り、今回映画祭で再び広島の地を訪れた心境については、「祖国アイスランドは、他国の映画で間違った表現で描かれることが多くその度に嫌な気持ちをもっていた。本作では同じように日本の方が嫌な気持ちにならないよう、絶対に間違えてはならないと思い、歴史や文化をしっかりと勉強した。でも少し心配です」と心境を吐露すると、観客からは大きな拍手が起こり監督からは笑顔がこぼれた。
本作は戦争や原爆が無力な一個人の人生を変えてしまう悲しさ虚しさを描いているが、コルマウクル監督は「原爆は人類最大の罪であると思っている。現在も世界が核の脅威に侵されている中、若い世代が広島や長崎の悲劇をどれだけ知っているのかと不安になった。この映画を観て、さまざまなところで原爆についての会話をもう一度始めることができないかと思って制作をしました。今年、<日本原水爆被害者団体協会>がノーベル平和賞の受賞したニュースを聞いて、やっと世界も認識しはじめてくれているのかもしれない。戦争が終わった後も、核の悲劇は残るということ、生まれてない赤ちゃんですら一生背負うぐらいの被害者になってしまうことを今一度伝えたかった」と改めて、映画への思いを明かした。さらに、映画が完成してしばらくした後、撮影に参加した方から、『実はずっと言えなかったが自分も被爆二世だった』と手紙をもらったと明かした監督は「今、現在も、自分が知りえない中でこれだけ押さえつけられている方がいると知りました。(被爆された)本人だけではなく、親戚や子孫だったりと続いていくので、本作を観て今一度、原爆について会話をすることへ繋がればと思っています」と会場、そして今後映画を見る観客へメッセージを送った。
最後に司会者が「この映画が一人ひとりの心にタッチしていくと信じて応援をしていきたい」と話すと、監督は、改めて本日の上映について「今日、皆さんにこの映画を観ていただき、自分にとってとても大切な日にもなりました。ありがとうございました」と語り、大きな拍手に包まれ舞台挨拶は幕を閉じた。
かつて異国の地で出会い情熱的な恋に落ちた2人。人生の終わりが見えた今だからこそ、あなたにもう一度会いたい。50年の時と海を超え、壮大なスケールで一生に一度の恋を描くラブ・ストーリー、映画『TOUCH/タッチ』にぜひご期待いただきたい。
【バルタザール・コルマウクル監督】
1966年アイスランド生まれ。1990年にアイスランド芸術アカデミーを俳優として卒業し、国立劇場の劇団員に。10年近く立て続けに主役に抜擢され、若手俳優として頭角を現し、高い評価を受ける。
90年代には、最も人気のある若手俳優の一人として、長編映画でキャリアを積むが、自身の会社であるThe Air Castleを共同設立し、舞台劇やミュージカルをプロデュース、演出する。さらなる芸術の道を探求し続け、映画製作会社Blueeyes Productions / Sögnを設立し、2000年にはビクトリア・アブリル主演の長編映画『101 Reykjavík(※原題)』を製作。この作品の国際的な成功によって、コルマウクルはVariety誌の“注目すべき監督10人”に選ばれたほか、
トロント国際映画祭でも賞を受賞する。それ以来、欧米を股にかけて監督、プロデューサー、脚本家として精力的に活動し、『湿地』(15)、『ハード・ラッシュ』(13)、『2ガンズ』(13)、『エベレスト 3D』(15)、『殺意の誓約』(17)、『アドリフト 41日間の漂流』(20)、そして最近では『ビースト』(22)などの長編映画を手掛けている。
公開表記
配給:パルコ ユニバーサル映画
2025年1月24日(金) TOHOシネマズ シャンテほかにて公開
(オフィシャル素材提供)