インタビュー

北欧メランコリック・ホラー『アンデッド/愛しき者の不在』テア・ヴィスタンダル監督 オフィシャル・インタビュー

© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

 長編劇映画デビューとなる『アンデッド/愛しき者の不在』が北米配給権を良質映画のセレクトで世界中から注目を集める映画スタジオNEONが獲得したことで、ノルウェーの新進気鋭監督の仲間入りを果たしたテア・ヴィスタンダル監督のインタビューが到着した。

原作小説「Handling the Undead」を映画化するきっかけは?

 実は、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの別の小説の映画化権を何年にもわたってお願いしていたのですが、その権利は他に渡っていて、権利元から「Handling the Undead」の映画化権の提案をいただきました。それが2018年で、映画化するという前提でこの小説を読みました。

原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストとの共同執筆作業はどのように進みましたか?

 実は15年前にスウェーデンの監督用にヨン自身が書いた脚本があり、それは、すでに原作から大幅に脚色されていたのですが、そこから始まりました。企画は2018年に始まり、翌年には撮影する可能性があったのですが、その間もヨンが何度も改稿していました。結局、撮影が延期になってしまい、かえって時間ができたことで、ヨンにリライトしていいかと相談し、快諾していただきました。最初からこれといったビジョンがはっきり見えていたわけではなく、書きながら見えてきた感じでした。
 ヨンの脚本は素晴らしく、尊敬しているからこそ、新たに変更を加えることに恐怖心はありましたが、時間をかけながら大胆なリライトをすることができました。コロナ禍中にその作業をしていたのですが、その影響もあってか、パーソナルなドラマに興味が向かいました。亡くなった人は蘇るのではないかと、私達の脳が思い込ませてしまう可能性があると思います。でも、実際にその望みが叶ったとき、それはどういう事なのかを純粋に突き詰めてみたいと思いました。

© MortenBrun
幼い息子を亡くした母・アナ役はオーディションで決めたそうですが、レナーテ・レイスヴェに決めた最大に理由はなんですか?

 オスロは小さな町で、映画の業界は更に小さなコミュニティです。レナーテとは一緒に仕事をしたことはなかったのですが、以前から共通の知人を通して知っていました。
 父親役のビヨーン・スンクェストやダヴィット役のアンデルシュ・ダニエルセン・リー等はキャスティングをしていたのですが、アナ役としてのレナーテのオーディション映像を見たときに、他の役者とは全く違うアプローチを取っていて、それがすごく際立っていました。そして、何人かの候補にコールバックをお願いし、ビヨーンと一緒に演じてもらうセッションを行ったのですが、それを見たときに彼女しかいないと確信しました。彼女の強さが、かえってビヨーン演じるマーラーの年配者独自の脆さを引き出してくれていて、父と娘という二人の隔たりのある距離感が面白いと感じたんです。
 ただ、『わたしは最悪。』が公開される前でしたが、レナーテとアンデルシュがこの映画で共演していることは知っていた上で、彼のキャスティングが決まっていたので、レナーテの起用には躊躇しました。でも実際、彼女がベストだった。それが撮影に入る1年半前。そこからの脚本のリライトでは彼女をイメージしながら書けたので、彼女の存在が役をより深く理解させてくれました。

© MortenBrun
完成した映画で一番好きなシーンはどこですか?

 アナ(レナーテ・レインスヴェ)が仕事から帰宅し、蘇った息子を見つけるシーンです。サスペンスなシーンではあるけど、歯を磨く、家に帰ってくるといった、日々の動きの中で起こるのです。日常的な平凡なことをしつつ、テンションがあるというところが気に入っています。

© MortenBrun
この作品ではセリフが少く観客の想像力が掻き立てられますが、セリフを抑えることには、そのような意図がありましたか?

 観客自身が、キャラクターの立場に自分を置いて考える余地や余白を残しておきたかったのです。キャラクターが話せば話すほど、浮かび上がった問題から注意が逸れてしまい、起きている出来事の神秘性が薄れてしまうことに気づきました。そもそも辛さや痛み、誰かを亡くした喪失感を経験している方は、自分の想いを伝える言葉が見つからないし、言葉を発するエネルギーさえ無いというのが現実ではないでしょうか。そういった意味で、セリフというものが、この作品ではあまり使われていないのです。だからこそ、視覚的にどこまで語れるかを自分に問いながら、小さなヒントを観客が理解してくれることを信じて作っていました。言葉に出来ないことを語るのは難しい。もしそうしてしまうと、マジックが失われてしまうのです。「死者が蘇った」みたいな、ありきたりで平凡な表現になってしまうのだけは避けたいという気持ちがありました。

© MortenBrun
次回作の予定は?

 新しい長編映画の企画を何本か温めています。脚色もあれば、オリジナルもあります。キャラクターが物語をひっぱり、その心理を掘り下げつつ更にホラー要素も加わるという、『アンデッド/愛しき者の不在』と近いジャンルの作品になると思います。

公開表記

 配給:東京テアトル
 2025年1月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか公開

 (オフィシャル素材提供)

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