最新ニュース

『あの歌を憶えている』公開記念トークイベント

© DONDE QUEMA EL SOL S.A.P.I. DE C.V. 2023

 登壇者:住吉美紀、ヴィヴィアン佐藤

 映画『あの歌を憶えている』の試写会が2月12日(水)に都内で開催され、上映後にはフリーアナウンサーで文筆家の住吉美紀をゲストに迎え、アーティストで映画批評家でもあるヴィヴィアン佐藤が司会を務める形でトークイベントが開催された。

 ニューヨークのブルックリンを舞台に、心の傷を抱えながらソーシャル・ワーカーとして暮らすシングル・マザーのシルヴィア(ジェシカ・ジャステイン)と若年性認知症による記憶障害を抱えるソール(ピーター・サースガード)という、“記憶”に翻弄されながら生きる男女の姿を描くヒューマン・ドラマだが、住吉は「すごく良い作品でした。テーマとか内容に“入り込む”という点でも素敵でしたし、映画好きの視点でも演出や脚本、カメラワークなど素晴らしかったです」と絶賛する。

 ヴィヴィアンは、本作で描かれているさまざまな事象や日々のちょっとした出来事が「みんなが思い当たる話」であると語り、住吉もこの言葉に「2人ともトラウマになるような経験をして、人生の大変なことを背負い込んでいるんだけど、(観る者が)いろんなところで共感できるポイントが作られていて、2人の気持ちに入り込めるんですよね」と深く同意する。

 住吉は、同じ女性としてシルヴィアに共感する一方、若年性認知症を抱えるソールについても「自分がそういう状況でなくても想像して共感してしまいました。夜中にトイレに行って、戻ろうとして、自分の部屋がどっちか分からなくなるシーンがありましたが、本当に切なくて……。もし娘の部屋を開けたら怖がられるとか、彼の中でいろんなことを考えて廊下に座り尽くしているのかと思うと、自分にその経験がなくても、本当に一瞬一瞬が大変な日々を生きているのが感じられました。そういう“入口”のつくり方が素晴らしいなと思いました」としみじみと語る。

 ヴィヴィアンは、シルヴィアとソールだけでなく、彼らを取り巻く人々の感情の描写についても触れ「家族を含め、それぞれの視点が描かれていて、“周囲の人”と言えない――周りの人間が脇役かと言うとそうじゃなくて、描き方が絶妙!」と語り、住吉も「全ての人物描写がこまやかで『こういう経験をするとこうなるんだよなぁ……』と想像させてくれる描き方をしている」とうなずき「(上映時間103分で)2時間を超えるような長い映画じゃないけど、奥行きがすごいので、観終わった後に、いろんな視点でもう一回、考えて味わいたくなるし、誰かと一緒に見ると『あれ、どう思う?』とか『あれを思い出した』と話がしたくなる」と重層的な映画のつくりにも称賛を送る。

 映画の中で、プロコル・ハルムの名曲「青い影(原題:A Whiter Shade of Pale)が印象的に流れるが、ヴィヴィアンは「すごく印象的だし、この映画にぴったり。60年代の曲だけど、どこか郷愁があり、神話的で懐かしさを感じさせる」と指摘。住吉も「音楽って、理屈を超えて、心に直で入ってくる。映画の原題は『MEMORY』で“記憶”ですけど、音楽ってまさに記憶と結びついているもので、時を超えてそこに連れていってくれる力がある。“記憶”というタイトルの映画の重要なポイントとしてこの曲を据えるって、まさしく! という感じがします」と語る。

 さらに住吉は、主人公2人を捉えるカメラワークの巧みさについても言及。「(カメラが)常に距離を置いて2人を捉えているんですね。彼らは社会と距離を取って生きていて、距離を取らざるを得ない寂しさ、警戒心もあって、その距離が(カメラワークに)表れていると思います。それ以上、周りが近づけない2人であることを、観客に訴えてくるし、(観客は)少し離れた距離のあるところから見ているからこそ、2人がグッとつながった時の絆がすごく強く感じられると思います」と熱く語り、映画というメディアならではの2人の心の距離、社会との距離の描き方を絶賛する。

 本作の脚本も手掛けているミシェル・フランコ監督による、映画的な描写の絶妙さに関しては、ヴィヴィアンも2人の出会いの同窓会のシーンについて言及。「お酒の飲めないシルヴィアが『早く帰りたい』という感じなんですけど、そこに(ソールが)ずっとチラチラと映ってるんです。なんか(シルヴィアを)見ている人がいるな……と思ったら、近づいてくる、それを1カットで撮ってるんです」と見過ごされがちな、巧みな描写を讃える。

 そもそも、この2人がどうして互いに惹かれ合うようになったのか? 映画の中ではきちんとした言葉で説明されないが、住吉は「細かい説明をしないで、余白を残してくれる面白さがある」と語り、シルヴィアとソールについて「“傷がある”というのはしんどいことだけど、傷がある者同士だからこそつながることができる時があって、傷があるからこそ、心のひだの隙間に入れたんだと思うし、他の人じゃダメだったんだと思う。傷ついたり、哀しさを抱えている同志だからこその絆があり、2人はそれを嗅ぎ取ったんだと思います」と指摘し、ヴィヴィアンも「記憶を失くしていくソールと、忘れたい記憶があるシルヴィア――ネガとポジのジグソー・パズルのようなポテンシャルがあった」とうなずく。

 そんな2人が抱える“傷”を通して、観る者にさまざまなものを訴えかける本作。住吉は「この映画を観て、自分の傷について考えるという方もいると思います。いまの日本は本当に生きづらい時代だと思うし、ニュースを見るだけで傷つくことも多い。そういう意味で、誰もが傷を持っているけど、その最たる人たちが(映画の中で)癒しを見つける。そこに希望を置いてくれたミシェル・フランコ監督に『ありがとうございます』という気持ちになるし、(映画の結末で描かれる)(映画の結末で描かれる)ああいう希望の置き方が、すごくリアルでした。理解者がいて、人と心がつながることでこれだけ救われ、希望を持って前を向いて歩いて行けると示し、私たちをも救ってくれていると感じます」と生きづらさを抱えて生きる現代の人々の光明となる映画だと訴えた。

 そして、改めて主人公2人を演じたジェシカ・チャステインとピーター・サースガードの熱演について、住吉は「全てがリアルでした。この2人のような実力派がやらないと、上滑りして、説得力に欠けてしまう作品だったと思います。シルヴィアとソールは本当にブルックリンにいるかも……と思わせるリアルさがすごかったです」と2人が物語にもたらした説得力に感嘆し「本当に何度も味わいたくなる作品でした」と惜しみない称賛の言葉を口にしていた。

 映画『あの歌を憶えている』は2月21日(金)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開。

公開表記

 配給:セテラ・インターナショナル
 2/21(金)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開

(オフィシャル素材提供)

関連作品

スポンサーリンク
シェアする
サイト 管理者をフォローする
Translate »
タイトルとURLをコピーしました