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登壇者:古田英毅(eJudo編集長)
モデレーター:森 直人
2月21日(金)、神楽座にて『TATAMI』トークイベント付き特別試写会が行われた。登壇者は、本作のベースのひとつとなった、2019年日本武道館開催の世界柔道選手権で起きた「サイード・モラエイ事件」を日本語実況、解説者として目の当たりにしていた柔道専門メディアeJudo編集長の古田英毅氏と、映画評論家の森 直人氏。感想を尋ねられた古田氏は、「柔道が絡むフィクション見ることはよくありますが、皆さんも覚えがあると思うのですが、自分の専門に近いものほどなかなか面白く見られないことってありますよね。ですが、そういうことが全くない、競技へのリスペクトを感じる、柔道を扱っていただいたことに誇りを感じるような作品であり、そういうバックグラウンドを超えて楽しめる、良質なエンタテイメント作品でもありました」と絶賛した。
「サイード・モラエイ事件」については、「いわゆる“イスラエル・ボイコット”については知っていたが、実際に目の当たりにしても現実味がありませんでした。日本のメディアも気がついていなかったと思います。イランのモラエイは前年の世界王者、イスラエルのサギ・ムキはワールドランキング1位の選手。最初は躊躇があるかと思ったモラエイは、途中から吹っ切れたように一本勝ちで勝ち上がった。これはいよいよモラエイ対ムキが決勝で見られると思っていたら、準決勝でモラエイの様子がおかしくなりました。平たくいうとオーラがない。意志が強く、『モラエイはこういう意図で攻めています』と解説しやすい選手なんですが、それが一切できない。心ここに有らずの状態でした。『明らかにメンタルの問題ですね。コーチは声をかけたほうが良いのでは』と解説して初めて、コーチ席に誰もいないことに気がつきました。そこで初めて“イスラエル・ボイコット”と目の前で起きていることに繋がりました。彼は今、国に逆らったんだと。知識はあってもその現実が地続きの出来事とは思えていなかったが、全員が凍り付きました」と、目撃した者だけが伝えられる衝撃的な言葉に会場からは驚きの声が漏れた。続けて、「この作品は、あの生々しさ、“地続きであるということ”を皆さんに感じてもらうための導入がしっかりとした作品で、楽しんでいただければと思います」と映画の面白さに太鼓判を押した。
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古田氏にとって、本作で最も印象深いキャラクターは共同監督とキャストを兼任したザーラ・アミール演じる柔道女子イラン・チームの監督マルヤム・ガンバリだ。「人間的な弱さ、人間らしさが見えるお気に入りの人物なのですが、思い入れる一つの理由として、彼女が明らかにアレシュ・ミレスマイリにインスパイアされたキャラクターだからです。彼はアテネ・オリンピックを世界チャンピオンの立場で迎えましたが、組み合わせが発表され、初戦の相手がイスラエルの選手だったために棄権しました。本人は否定していますが、体重をわざと超過させ、軽量失格となったのです。オリンピックには出場しませんでしたが、彼は国では英雄です。そして今イラン柔道連盟の会長をしています。マルヤム・ガンバリはもう一人のミレスマイリだと感じました」と実在の選手になぞらえて語る。「ガンバリがどういう決断をするかは映画を観ていただきたいのですが、『これはミレスマイリのもう一つの可能性だ。僕たちが知っているミレスマイリにどんな選択肢があったのか。別の人生を見せられているな』と非常に思い入れを感じました」と柔道識者目線で映画の重要ポイントを指摘した。
アリエンヌ・マンディ演じる主人公のレイラ・ホセイニについては、「柔道未経験者がやった柔道アクションのなかでは間違いなく最高峰」だと絶賛。「最初に自分の専門に近いほど没入するのが難しいという話をしたが、そういう部分がなかった」とし、「競技シーンはカメラが近く、一人称視点に近い。競技のメジャーな中継映像に引っ張られずに、『わたしはこれを撮りたい』というのが見える、没入感が得られる映像。その結果、違和感のある描写がなく、感情移入もしやすく、作劇と競技へのリスペクトが両立してる」と、緊迫のストーリーとリアルな試合シーンの双方が両立した卓越した演出を高く評価した。
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イスラエル出身のガイ・ナッティヴ監督と、イラン出身のザーラ・アミール監督、映画史上で初めてイランとイスラエルにルーツを持つ二人が共同で監督を務めたことについて、「モラエイと同じように二人が勇気をもって立ち上がったことに敬意を表したい。スポーツや文化は、いろんな抑圧があれど政治よりは自由な世界。この作品を観て感じることがすごくあったし、文化は抑圧への抵抗の手段として大きい勢力になりうるということを改めて思いました。映像という形で後世に残りますし、単にあったことを伝えるわけではなく、大きな政治にぶつかっていくために文化という対立軸があるんだなと思わされました」とリスペクトを語る。
最後は、「柔道の理念などを思うと、そういうことを表現しようと思ったときに、競技が選ばれたことは必然だと思っています。柔道の文化はとてもつながりが強く、国や政治体制を超えて“柔道ファミリー”という別の体系でまとまっている。そのジャンルを使って表現してくれたことに誇りに思います。スポーツと芸術は、政治に対する勢力として非常に似ているんだなと再認識しました」と語りイベントを締めくくった。
政府に服従するか、自由と尊厳のために戦うか。人生最大の“決断”を描く必見のポリティカル・スポーツ・エンターテインメント『TATAMI』は、2025年2月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー!
公開表記
配給:ミモザフィルムズ
2025年2月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開