
現代の韓国社会を舞台に、生まれ育った場所で生きづらさを感じる女性が人生を模索する姿を描いた、映画『ケナは韓国が嫌いで』がいよいよ明日3月7日(金)より全国順次公開を迎える。
第28回釜山国際映画祭オープニング作品として話題を呼んだ本作は、小説「82年生まれ、キム・ジヨン」と同じ出版社から刊行されたベストセラー小説「韓国が嫌いで」を原作に、韓国の若者が直面する現実を映し出す。監督は、「第二のホン・サンス」「韓国の是枝裕和」と称され、映画『ひと夏のファンタジア』で知られるチャン・ゴンジェ。2015年に原作を読んだ監督自らが映画化を熱望し、9年の歳月をかけて本作を完成させた。
本作は、地獄のような長時間通勤、恋人との不透明な未来、仲が良いけれど息が詰まるような家族との日々のなかで、“ここでは幸せになれないと”感じたコ・アソン演じる主人公28歳ケナは新しい人生を始めるため、すべてを手放し、ニュージーランドへ旅立つ物語。
この度、韓国の社会状況にも精通する韓日翻訳者の小山内園子やすんみ、韓国留学の経験があるモデルの前田エマほか、文筆家でイラストレーターの内澤旬子、文筆家・「桃山商事」代表の清田隆之や、元新聞記者で小説家の星野智幸、シンガーソングライターの柴田聡子、漫画家のマキヒロチややまじえびねなど幅広いジャンルの著名人総勢15名より推薦コメントが到着! 生まれ育った場所で感じる「生きづらさ」「違和感」から目をそらさず、幸せを求めて生きていくケナの姿に、多くの共感の声が寄せられた。
併せて、本編映像も解禁となった。今回解禁となった本編映像は、ニュージーランドで主人公のケナ(コ・アソン)と同じ語学学校に通うことになる韓国人留学生ジェイン(チュ・ジョンヒョク)が初めて出会った日の1シーンから。ジェインはリュックサックから格安の袋ワインとナチョスを取り出し、ケナに勧める。ちゃらけた様子のジェインに苛立ちを隠せないケナ。ニュージーランドにやって来た理由を訊かれたケナは、「私は韓国が合わないみたい。実家もお金がないし。いい大学も出てない」と打ち明ける。ジェインが「俺もFラン卒だ」と返すと、「私は弘益大卒だよ」とマウントを取るケナ。そこに現地の男性がやって来て、「ここでの飲酒は違法だ」と2人に英語で注意をするが、まだお互いに英語が苦手な2人は男性の言葉が理解できずにいる。留学生活への不安を抱き、噛み合わない様子の2人を垣間見ることのできる1シーンだ。
主人公ケナを演じるのは、2004年に子役としてデビュー後、ポン・ジュノ監督『グエムル-漢江の怪物-』(06年)に中学生の娘役で出演し、天才子役として鮮烈な印象を残したコ・アソン。ジェインを演じるのは、TBS系新春スペシャルドラマ「スロウトレイン」で日本デビューを果たし、更なる今後の活躍が期待されるチュ・ジョンヒョク。ケナとジェインが初めて知り合うという設定だったにもかかわらず、チュ・ジョンヒョクの持ち前の社交性で撮影前にコ・アソンと親しくなり、ぎこちなく居心地が悪そうに見えるよういくつかのシーンを再撮影しなければならなかったというエピソードが明かされている。

その後、ケナとジェインは、それぞれ自分の道を見つけ出し、かけがえのない友人となっていく。ケナの旅立ちも見逃せない。映画『ケナは韓国が嫌いで』は明日3月7日(金)より全国公開。
コメント
内澤旬子(文筆家、イラストレーター)
韓国の二十代、三十代の普通の若者たちが抱える逼塞感がとても丁寧に描かれています。違和感にノーを突きつけ続けるケナの姿を見て、自分はちゃんと闘っているか、丸め込まれていないか、考えさせられました。
小川紗良(文筆家・映像作家・俳優)
スーツケースいっぱいに「不自由」を詰め込んで、引きずり歩くケナ。結局どこまで行っても、自分自身から逃れることはできない。それでも旅を経て、バックパック1つで「不自由」を背負い直す彼女の姿が、清々しかった。
小山内園子(韓日翻訳者)
「逃げる」って、ちっとも悪いことじゃない。自分が壊れそうだと思ったら、逃げたっていい。逃げられれば、「捨てる」ことができるようになる。捨てることを覚えれば、「選ぶ」ことができるようになる。ケナはそう、教えてくれる。
清田隆之(文筆家・「桃山商事」代表)
一方にとっては“チャンスをくれる”社会でも、もう一方にとっては“未来がない”社会だったりする──。
「閉塞感」や「生きづらさ」といった言葉で表現される諸々が、見えづらい差別や特権性が、ケナの肌感覚を通じて生々しく伝わってきました。
児玉美月(映画批評家)
「“幸せ”って言葉は過大評価されてる気がするんだよね」──そうケナが言ったとき、思いがけずハッとさせられた。
自分の国で生きることに疑問を持ったケナの旅を一緒に経験することできて、ほんとうに良かった。
わたしもきっと、何度も同じように迷ったり悩んだりするだろうから。
小安美和(株式会社Will Lab 代表取締役)
「幸せ」って何だろう。韓国社会の生きづらさから抜け出して異国でもがくケナの姿に、日本社会の生きづらさが重なる。わたしも旅に出たくなった。これからのわたしたちの社会のあり方、個人の生き方を考えるために。
桜林直子(文筆家・雑談の人)
自分のいる場所や現状への違和感や怒りを、「どこかに居場所があるはずだ」と行動につなげられたことに拍手を送った。たとえそれが悪あがきだとしても、思い通りにはならなかったとしても、その足を止めてはいけない。幸せを望むことをやめてはいけない。自分をいい場所に連れて行くのは自分だけなのだと改めて感じることができた。
柴田聡子(シンガーソングライター・詩人)
映画が始まってすぐの音楽・カット・演技・台詞など映画を構成する要素ががっちり噛み合って、これから始まるケナの冒険の揺らぎや熱さの予感を、鮮やかに物語り始めたことがほんとうにすごかったです。痺れながら映画に入っていく体験に静かに興奮しました。
その鮮やかさを保ちつつ、映画が進むにつれ、登場人物それぞれの色が混じり合う複雑な模様が丁寧に描かれていったこと、映画に現れるなにもかもが、特定の出来事や人物を描くための手段ではなくそのもので存在していることが私にとっては幸福でした。肩をすくめて寒がって歩くケナと陽光のなかを薄着で歩くケナなど、対比が際立つ表現もそうで、比較だけを目的としないで、どの時点のケナも欠かすことが出来ないと、同じテーブルの上に並べていってくれるようでした。今生きている人間としてこの映画に出会い、それがとても良くて、面白くて、胸に残って、すごくうれしかったです!
すんみ(翻訳者)
主人公のケナは、韓国社会の男女差別、貧富格差などにうんざりして、韓国を離れることにする。たとえ大事なものを手放すことになろうと、誰かに逃げだと言われようと、そこが自分だけの地獄【ルビ:ヘル】だとしてもかまわない。どこにたどり着くか分からなくても細かく揺れて動き続けるしかない。ケナは、誰かに選ばれる人生を生きるのではなく、自ら人生を選ぶことにしたのだ。
ひらりさ(文筆家)
質問です。いま、幸せですか? これは、自信をもって答えられない私たちのための映画。観終わる頃、きっとあなたは行動したくなる。自分で自分の人生を選びとるために。自分を好きになって、世界との関わり方を変えるために。
星野智幸(小説家)
人生が苦しくなったら、まずは今ここを捨てて、自分の生きる国の外に出ればいい。「日本が嫌いで」と、言葉にしてみればいい。そうすれば後悔がひとつ減るから。言葉以上に、繊細な映像で静かに語るこの映画に、私も背中を押された。韓国に行こうかな。
前田エマ(モデル)
韓国留学中に出会った日本人からよく耳にした言葉があります。
「日本が合わなくて。息ができない感じがして」
ケナが体験したことは、韓国に限った話ではないのでしょう。
私の友人たちの話だと思いながら観ました。
マキヒロチ(漫画家)
タイトルにドキッとしつつも『嫌いで』の後に続く気持ちを探しながら見守ったケナの冒険。格差社会が嫌、貧乏が嫌、嫌なことばかりでいつもムスっとしている彼女なのに、周りのみんながほっといてくれないのが可愛い。最初からしばらく伝わってくる冬のソウルのツンとした冷たい空気が段々適温になっていき、最後にはケナの後ろ姿が「何に悩んでたんだっけ……」と心地よい空っぽな気持ちにさせてくれました。
やまじえびね(漫画家)
ケナの毎日の息苦しさをどうしてこんなに分かると感じるのだろう、韓国で暮らしたこともないのに。恋人に「僕が支えるから」と言われて匙を放るケナにはっとした。そうだよそんなこと望んでない。もう我慢しない!「わたしがわたしでいられる場所」をめざして踏みだすケナがまぶしい。
きっとこの映画は誰かの背中を押してあげるだろう。新しい場所へ飛びだそうよと、やさしく、さりげなく。
和田彩花(アイドル)
自然体で、自分にとっての幸せを感じて生きるケナの姿が、この物語の明るさであり、煌めきであった。生っぽい質感で捉えられるそんなケナの姿には、生きる意味が映し出されていた。
自分の生まれた国を嫌いになったことのある私にも、ケナは問いかける。私にとっての幸せとは何か。
公開表記
配給:アニモプロデュース
2025年3月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
(オフィシャル素材提供)