
登壇者:西村匡史(監督)、小川彩佳(「news23」メインキャスター、映画祭スペシャルサポーター)
TBSテレビやTBS系列各局の記者やディレクターが、歴史的事件、現在進行形の出来事、そして市井の人々の日常を追い続け、記録し、情熱を込めて世に送り出してきたドキュメンタリーブランド「TBS DOCS」。その想いが結実した場として2021年にスタートした「TBS ドキュメンタリー映画祭」が、2025年も3月14日(金)より東京・名古屋・大阪・京都・福岡・札幌の全国6都市で順次開催されることが決定した! テレビやSNSでは伝えきれない「事実」や「声なき心の声」に迫る本映画祭では社会問題や多様な生き方をテーマにした作品から、アーティストに密着したものまで厳選された17作品を上映予定。
本日、映画祭開催直前として、『彼女が選んだ安楽死~たった独りで生きた誇りとともに~』の「いのち」について語り合うトーク付特別試写会を実施した。
本作『彼女が選んだ安楽死~たった独りで生きた誇りとともに~』は、西村匡史監督による、2022年、安楽死するためにスイスに渡った迎田良子さん(64)に焦点を当てたドキュメンタリー映画で、同様のテーマ、取材内容を記事にした『「安楽死」を考える スイスで最期を迎えた日本人 生きる道を選んだ難病患者』は2023年11月から2024年10 月に国内最大級のニュースサービス「LINE NEWS」に配信された400万本を超える記事の中から、社会課題を工夫して伝えた記事を表彰する<LINE ジャーナリズム賞>年間大賞に選ばれた注目の作品だ。
映画祭の開催を控えた本日、試写会が実施され、上映後には西村匡史 監督と共に、TBS「news23」のメインキャスターであり、本映画祭のスペシャルサポーターを務める小川彩佳が登壇。「安楽死を考えることは「生と死」を考えること。迎田さんの生き様が、「いのち」をみつめ直すきっかけになることを願ってやみません」と語る監督と、報道キャスターとして活躍する小川彩佳が、「いのち」について語り合い、映画を鑑賞した観客からのQ&Aも実施した。
西村監督は映画を観終えたばかりの観客を前に、初めて一般の観客に作品を観てもらった今の気持ちを聞かれると、「2021年1月に1通のメールから始まったこの映画が、生きること・死ぬことの議論のきっかけとなればと思います。そして最後まで逃げることなく取材に応じていただき、映画という形にすることで、彼女(迎田良子さん)の想いをひとつ届けることができたと思うので、少しホッとしている部分もあり、これからいろんな人に届けば良いなと思います」とコメント。
続いて映画の感想を聞かれた小川は、「西田監督とは今まで番組で一緒に仕事をする機会もあり、想いを込めて熱心に向き合う姿を見てきていたので、今回映画という形になったことが、自分も感慨深いです」と語った。また、「安楽死というテーマだとどうしても構えてしまう部分があったが、作中で描かれていたのは一人の女性の生き様で、自分自身の生き方を見つめ直すきっかけになった」と作品の感想を述べた。
TBS ドキュメンタリー映画祭のスペシャルサポーターを務める小川は、映画祭の意義に関して聞かれると、日々どうしても、取材したのにも関わらずテレビの報道の中には入りきらずに、残念ながらそぎ落としていた部分を知っているからこそ、それを皆さんにお見せできる機会があるというのは素敵なことだと語り、本映画祭の魅力をアピール。
その後、西村監督が今まで22年間の記者人生において、常に“いのち”をテーマにおき取材を続けてきたこと、小川もまた、news23のメインキャスターとして日々“いのち”に関わる情報に触れていることを踏まえ、二人にはトークは、「いのち」について深まっていった。
小川から監督へ“どんな思いで迎田さんに向き合ったのか”の質問が飛ぶと、監督は、「私はちょうどロンドンに駐在していたので、日本に住む迎田さんとは何度もZOOMで話し合って関係を築いていきました。最初は安楽死のことばかりを話していましたが、徐々に彼女の生きてきた人生や楽しい思い出を話してくれるようになったことで私にも情が生まれてしまいました」と、記者という立場で取材を続けながらも、なんとか生き続けることができないものか、という気持ちも芽生え、葛藤した気持ちを述べた。「これまでは“生きる方向”に背中を押すものを撮ってきたので、安楽死はその逆になるので葛藤することも悩むことも多かった」と吐露。
また西村監督は、安楽死は社会にとって脅威だとも感じているという。「例えば、本当はまだ生きたいと思っている人が、周囲に迷惑をかけたくないという理由で安楽死を選んでしまうことがあったり、中には周囲が自分の死を望んでいると思ってしまう人が出てきてしまう可能性もある。安楽死は常にそういうリスクと背中合わせで、それを紹介することは最後の最後まで葛藤は拭えない。それでも、誰にでも訪れる死については議論すべきだ」と力強く話した。
続いて行われた来場者からの質問に答えるコーナーで、<迎田さんの決断をどう思ったか>と聞かれた小川は、作品を観ているうちに彼女の魅力にすごく引き込まれ、自身も迎田さんと言葉を交わしてみたかったと感じた、と語った。同時に、それぞれの人生の中で編み出されたものが人生を貫いていくことも認識し、周りの人間がとやかく口をだせるものではないし、そういう領域が彼女には確実にあったと感じた、と語り、そういった領域を自分も人生の中で育てていきたいと思い、それは目の前にある一日や家族・自分自身を大切にすることだと思うと、自分の生き方を考える機会になったと言葉にした。
また、<海外に比べ、日本ではあまり安楽死の議論自体が起きにくい。どういったことがあれば日本でも議論が活発化するのか>という質問に対し監督は、「イギリスでは小学校の授業でも、安楽死をテーマにディスカッションをするのが普通なこと。それに対して、日本ではまだ死はタブー扱いされている。海外も政治から率先して動いているというよりも、市民の声が政治を動かしているのが現状。日本ももっと、誰もが関係する“いのち”に対しての議論が活発になり、少しでも市民が自分から考えて動いていくことが必要で、そうすれば自然と政治が動いてくるのではないか」と自身の見解を述べた。続いて小川は、「議論をするためには、時間と情報が必要なので、決して結論を急ぐべきではなないですが、(議論をする)そのために教育やメディアがさまざまな角度から情報を伝えていく必要性を感じています」とコメント。
最後に小川は、映画祭の作品は多岐にわたり、老若男女さまざまな方にフォーカスが当てられており、ともすれば自分から遠い違う世界を生きる人というように感じることもあるが、作品を観ていると、どこか自分と映し鏡になっており、そこに境目がなく自分と地続きになっている世界の方たちなんだなと分かってくる瞬間があるので、その瞬間を映画祭を通してたくさん経験していただけたらと思います、と来週3/14 から開催される映画祭に対してコメント。監督は、今回の映画を通して、安楽死だけでなくひとつの“いのち”について考えるきっかけになればいいと思い、一人でも多くの方にそれが届けば、迎田さん含む今まで取材させていただいた方への恩返しになると思います、と語り、トークイベントを締めくくった。
『彼女が選んだ安楽死~たった独りで生きた誇りとともに~』
2022年、迎田良子さん(64)が安楽死するためにスイスに渡った。重い神経難病を患ってきた彼女は死の直前、立ち会った記者に語りかけた。「安楽死することは悲しいことではない。やり残したことは何もないし、本当に幸せな人生だったの。やっと夢が叶うのよ」。過酷な幼少期を経て、度重なる困難にぶつかろうとも、たった独りで人生を切り拓いてきた迎田さん。「誰かに頼って生きるなんて嫌なのよ」。彼女はなぜ人生の終わりに、安楽死を選んだのか。
監督:西村匡史
1977年4月28日生まれ、新潟県出身、東京都育ち。2003年にTBS入社。報道局社会部で警視庁、横浜支局、検察庁、裁判所を担当。「NEWS23」、司法キャップを経てロンドン特派員として安楽死を取材。現在、「報道特集」の記者。事件、事故、震災、戦争、自死などの被害者取材から、死刑囚やその家族などの加害者側の取材まで、一貫して「いのち」をテーマにした特集を手掛ける。
主なドキュメンタリー作品に「8.12 日航ジャンボ機 墜落事故30年の真相」、「世界一寛容なノルウェー刑務所 ~77人殺害テロ事件遺族の葛藤~」、「ボスニア紛争 ~8000人犠牲のスレブレニツァ虐殺現場の今~」、「遅すぎることはなかった~オランダ戦後75年の補償~」など。映画監督として「死刑囚に会い続ける男」、「さっちゃん最後のメッセージ ~地下鉄サリン被害者家族の25年~」を制作。著書に「悲しみを抱きしめて 御巣鷹・日航機墜落事故の30年」(講談社)。「報道特集」で放送され、大きな反響を呼んだ特集記事「安楽死を考える スイスで最期を迎えた日本人 生きる道を選んだ難病患者」で、2024年の「LINE ジャーナリズム賞」年間大賞を受賞。
TBSドキュメンタリー映画祭とは
TBSテレビやTBS系列の各局の記者やディレクターたちが、歴史的事件やいま起きている出来事、市井の人々の日常を追い続け、記録し続け、熱い思いとともにドキュメンタリー映画として世の中に発信し続けるために立ち上げられたブランド「TBS DOCS」。「TBSドキュメンタリー映画祭」は、TBS DOCSが手がけた至極の作品を集めた映画祭。テレビやSNSでは伝えきれない事実や声なき心の声を発信し続ける本気のドキュメンタリー作品に出会える場として、2021年より開催し、今回で第5回を迎える。
現代を取り巻く重要な社会問題を考える「ソーシャル・セレクション」、多様な生き方や新たな価値観を見つめる「ライフ・セレクション」、表現者や歴史再発見を通して新たな感性に出会える「カルチャー・セレクション」の3つのテーマに沿って、上映作品を選出。あわせて、「戦後80年企画」と題して、戦時下や戦後を生きた人々を映した作品も特別上映。
これまでも『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(監督:豊島圭介・20)、『ももいろクローバーZ アイドルの向こう側 特別上映版』(監督:酒井祐輔・22)、『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(監督:武石浩明・22)、『戦場記者』(監督:須賀川拓・22)、『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ロックと家族の絆』(監督:寺井到・23)、『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』(監督:穂坂友紀・23)など、12作品以上を劇場公開へ繋げている。
公式サイト:https://tbs-docs.com/2025(外部サイト)
公式X:https://x.com/TBSDOCS_eigasai(外部サイト)
TBSドキュメンタリー映画祭2025 概要
東京=会場:ヒューマントラストシネマ渋谷|日程:3月14日(金)〜4月3日(木)
大阪=会場:テアトル梅田|日程:3月28日(金)〜4月10日(木)
名古屋=会場:センチュリーシネマ|日程:3月28日(金)〜4月10日(木)
京都=会場:アップリンク京都|日程:3月28日(金)〜4月10日(木)
福岡=会場:キノシネマ天神|日程:3月28日(金)〜4月10日(木)
札幌=会場:シアターキノ|日程:4月5日(金)〜4月11日(金)
【数量限定特典】
特製ポストカード付きムビチケカード、2月7日(金)より発売開始!
全作品共通1回券/1400円(税込)
(オフィシャル素材提供)